2017年、富士通は、パソコン(PC)事業を担う100%子会社だった富士通クライアントコンピューティング(FCCL)の株式の51%を中国レノボグループに売却し、同社グループのPC事業はレノボ傘下に移行した。18年に入っても、シャープが東芝のPC事業の買収を検討していると報じられるなど、PC、ハードウェアメーカーの再編の動きはまだまだ進みそうだ。日本コンピュータシステム販売店協会(JCSSA、大塚裕司会長)は、例年1月に、賀詞交歓会と合わせて会員向けの新春セミナーを開いているが、ここでは有力ハードメーカー9社が一堂に会し、18年の製品・販売戦略をプレゼンした。みえてきた、市場の変化とは――。(本多和幸)

JCSSAの新春イベントに集結

 JCSSAは、今でこそ多様なベンダーが正会員に名を連ねているが、黎明期はPCの店頭販売店の団体として活動してきた。そうした事情もあり、年始恒例のハードメーカーの製品・販売戦略プレゼンでは、各メーカーとも、PCを核に、その他のデバイス、サーバー、関連するソリューションなどについて説明する傾向が強かった印象だ。しかし、その傾向は確実に変化してきている。

 今回登壇したのは、NEC、日本マイクロソフト、日本ヒューレット・パッカード、日本HP、東芝クライアントソリューション、富士通、日立製作所、VAIO、レノボ・ジャパンの9社だが、もはやハードウェアメーカーとしてのビジネスに重きを置いていないベンダーも少なくない。

 例えばNECが前面に押し出したのは、「デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現」というメッセージであり、その一例として、自社で進めてきた働き方改革の取り組みでは、RPAの導入により伝票処理業務を70%削減したことなどをアピール。自社の製品・技術としては、AIの「NEC the WISE」をこれからのビジネスの核にしていくことを説明した。顔認証、指紋認証、物体指紋認証など、五感による識別・認証技術で大きな強みをもっていることや、多様な分析エンジンをWISEブランドのなかに揃えており、それらを組み合わせてAIソリューションを柔軟かつスピーディに開発できるサービスを提供するために、今年4月には「NEC Advanced Analytics Cloud」をリリースすることも明らかにした。ちなみに現在、NECでAIソリューションの開発に携わっているエンジニアは、1700人を超えているという。さらには、「AI、ビッグデータ領域のアクセラレータとしてスパコン技術をより身近に」と銘打って、世界一の単一コア性能を実現したというベクトル型新プラットフォーム「SX-Aurora TSUBASA」を2月にリリースすることも発表。210社のパートナーとともに、AI・IoTビジネス共創コミュニティをつくり、顧客のDX実現に取り組んでいることも紹介した。PC、サーバーなど、NECグループ、NECブランドで手がける汎用ハードウェア製品の紹介に割いたのは、プレゼンの最後、ごく短時間だった。

象徴的な3社のプレゼン

 さらに徹底していたのが、富士通だ。AIを前面に出したのはNECと同様だが、「量子コンピューティング、ディープラーニング、HPCの三つのテクノロジーでAIを加速させる」としたうえで、プレゼンの内容は量子コンピューティングのみに絞った。量子アニーリング方式のコンピュータ「デジタルアニーラ」を、同社の次世代のビジネスのキーとなる技術として紹介。クラウドサービスでの提供を18年度(19年3月期)第1四半期に開始し、サーバー製品もその後に市場投入する予定であることを明らかにした。

 デジタルアニーラは、実際に量子を使っているわけではなく、従来のコンピュータ上で量子状態を疑似的に再現し、量子アニーリング方式の処理を行っている。そのため、量子コンピュータに必須の超低温の冷却装置が不要で、常温で安定して動作し、小型化できる。それでいて、量子コンピュータと呼ぶに足る処理能力を備え、「現実社会の問題に量子コンピューティングを適用可能なハードウェア」(同社)だとしている。登壇した富士通の吉澤尚子・執行役員AI基盤事業本部長はデジタルアニーラについて、「組み合わせ最適化問題を高速に解くことができるのが特徴で、スーパーコンピュータの『京』で8億年かかる計算を、1秒で実行できるケースもある。組み合わせ最適化問題は、金融、科学、製造・流通、デジタルマーケティングなど、あらゆる産業分野に存在しているため、ビジネスチャンスは大きい」と強調した。吉沢本部長は、「汎用コンピュータの次の世界は量子コンピュータが開くといわれている」と指摘したが、用途の開発も含めて市場をつくっていかなければならない新しい技術であり、富士通もまずは自社のSI案件でビジネスを立ち上げていくことになるだろう。

 日立製作所も、アピールポイントはIoTプラットフォームの「Lumada」一点だった。Lumadaについては、「100年以上の蓄積があるOT(制御技術)とITを組み合わせてIoTイノベーションをけん引していくための基盤」だと強調し、茨城県大みか工場での生産効率向上事例の構築や、それをソリューションパッケージに仕立て、顧客にも水平展開していることを説明。将来的には、“お客様”と新しいサービスの共創に取り組む基盤に発展させたいとの意向を示した。一部小規模に残存したとしても、日立が汎用ハードウェアの間接販売という世界からは、もはや遠く離れて歩んでいることがあらためて浮き彫りになった感がある。

 立場が若干異なる日本マイクロソフトは、インテリジェントクラウドやインテリジェントエッジのコンセプトを説明するとともに、Windowsの提供者として、Windows 7のサポート終了をビジネスチャンスにつなげてほしいと訴えた。実際サポート終了は大きなビジネスチャンスだが、登壇メーカーの3分の1がPC、汎用ハードウェア製品をメーカーとしてアピールしなかったというのは、市場の変化を象徴している。NECと富士通はPC事業がレノボ傘下になっていることから、こうした流れは半ば自然なものといえるし、東芝グループも、PC事業の売却を模索している状況が続いている。JCSSAのイベントには参加していないが、グローバルでEMCを統合したデルも、PC、サーバーをはじめとしたハードウェアビジネスでは国内市場で存在感を高めている。
 
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JCSSA
大塚裕司
会長

 全社のプレゼン終了後には、登壇者への公開アンケートも行われ、大塚裕司会長から、「自社製品の販売に関して、JCSSAの会員に期待しているか。また、JCSSA会員に対する販促支援策を増やすか」という問いが投げかけられた。全登壇者がイエスと答えたが、もちろんこれはリップサービスだ。JCSSAの会員企業には、メーカーの戦略を冷静に見極めることが求められている。