NECの精鋭研究員が中心となって米シリコンバレーでdotData(ドットデータ)を創業。今はNECが全面的に支援するが、早い段階で外部から資金や人材を獲得し、およそ8年後をめどにユニコーン企業の目安とされる企業価値10億ドル(1100億円)の実現を目指す。NECがAIの先端技術の開発を社外に託す狙いはどこにあるのか。(安藤章司)

 dotData創業者の藤巻遼平氏は、機械学習の専門家だ。NEC研究所の研究員としてAI商材群「the WISE(ザワイズ)」の中核技術の一つ「異種混合学習」の発明に中心的な役割を果たしたとして、NEC史上最年少で主席研究員に抜擢された。「異種混合学習」は、通常のディープラーニングでは難しいとされる「予測結果の裏づけとなる根拠」を明示できるNEC独自の技術である。

 藤巻氏は、2011年に渡米してシリコンバレーの一角、クパチーノにあるNECの研究所に勤めている。そこでみたものは、「ITスタートアップ企業の熾烈な競争と人材採用、経営スピードの速さ」(藤巻氏)。NEC本社の経営判断と事業部門での商品化を待っていては、「世に出した頃には、すでに時代遅れの技術になってしまう可能性が高い」と痛感した。そこで、NEC本社役員を説得し、この4月、NECのブランドを冠さないdotDataの設立にこぎ着けた。

 dotDataは、データ分析の下準備を自動化する「予測分析自動化技術」の開発を柱に据える。これが実現できれば、データサイエンティストが行っている手作業のデータ整理においてAIを使い、入力可能なデータに整えたり、データの特徴的なパターンを抽出する膨大な作業量を大幅に削減する。「AI活用のハードルが格段に下がる」という。

 AIの開発には、一にも二にも独創的な思考力をもった高度人材が欠かせない。プログラマが何千人集まっても、AIのような独創的なソフトウェアは開発できないからだ。藤巻氏は、「そうした天才プログラマは、NECのような大企業の組織で甘んじるのではなく、スタートアップで一旗揚げたいと考えるケースが多い」と話す。創業10年以内に企業価値10億ドル超でIPO(新規株式公開)できれば、サラリーマンでは絶対に手にできない大金を30代で手にできるという、極めて現実的な目標もある。

 シリコンバレーは、天才が世界中から集まる場所であり、米国内でも異質なムードがある。世界の天才たちが生み出す新しい価値に引きよせられるように投資家が集まり、競争環境が生まれる。AIの世界で勝ち上がっていくには、この「人材(≒天才)と資金を得て、競争を勝ち抜いて、早期に事業化していくことが、成功への近道」と、藤巻氏は考えている。

 dotDataでは、4年後の2022年に企業価値5億ドル、8年後にユニコーン企業となり、その後にIPOする目標を掲げている。企業価値を高めていく過程で、NECは日本国内での独占販売権こそ手にするものの、dotDataという会社はNECの手から離れていくことになる。

 NEC社内で開発するのではなく、社外に出して大きく育てる方式は“サケの稚魚放流”に似ている。そうまでしてもdotDataを全面的に支援する理由は、AI開発が限りなく“発明”に近い行為だからにほかならない。既存技術の改良の延長線上には、独創的なAIは生まれないとの判断からだ。

 稚魚が大きくなって元の川に帰ってくる確率は決して高くない。NECはAIで勝ち進んでいくためのハイリスク・ハイリターンの挑戦を仕掛けようとしている。