IT導入補助金の二次公募締め切りが迫っている。中小企業や小規模事業者が業務の生産性を向上させたり業績を伸ばすためにITを積極的に導入する動きを活性化させるべく、IT業界団体の強い働きかけもあって実現した施策だ。しかし、この制度を活用していこうという気運がなかなか盛り上がっていない実態が、一次公募の採択結果から浮かび上がっている。日本の産業界のボトムアップにつながってほしい制度であるとともに、中小企業、小規模事業者を対象にビジネスをしているITベンダーにとっても本来はビジネスチャンス拡大への貢献が期待できるものだったはずだが、果たしてここから巻き返しは可能か──。(本多和幸)

採択件数は1万件弱に
とどまった一次公募

経済産業省
商務・サービスグループ
サービス政策課
平川怜奈
総括係長
 国が2017年度補正予算で500億円を確保したIT導入補助金制度。初の実施となった16年度補正予算における事業費は100億円だったため、これと比べると事業費は5倍に膨らみ、より多くの中小企業・小規模事業者が制度の恩恵を受けられるようになるはずだった(詳細は別記事参照)。事業主体の経済産業省によれば、16年度補正事業の採択件数は1万4301件だが、17年度補正事業では10万件超、具体的には13万件程度の採択を見込んで制度設計したという。

 今年度は補助の交付申請を三回にわたって公募する計画だが、申請者が殺到すれば、申請時期が遅くなるほど採択される確率は下がってしまう。事実、16年度補正事業では一次公募の採択率が100%に近かったのに対し、二次公募の採択率は3割にも満たなかった。そのため、補助対象となるソフトウェアのメーカーなどを中心に、前年度に不採択となった企業の再応募も含めて17年度補正のIT補助金事業は一次公募に申請が殺到するのではないかとみる関係者もいた。

 さて、結果はどうなったか。一次公募は4月中旬から6月上旬までだったが、採択件数は9248件にとどまった。補助金総額は40億円に満たない見込みで、用意した予算の10分の1も消化できなかったことになる。かなり低い数字といわざるを得ないだろう。ITベンダー側には、中小企業・小規模事業者向けの恒常的なIT活用支援制度としてIT導入補助金に期待する声も根強い。もちろん、予算の消化そのものが目的ではないが、これを使いきれなければ、制度そのものの存続すら危ぶまれる状況になる。

 ただし、経済産業省商務・サービスグループ サービス政策課の平川怜奈・総括係長は、「ここからどう採択件数を増やしていくかは確かに課題だ」としつつも、必ずしも状況を悲観してはいないという。「16年度補正予算事業に続いて17年度補正の一次公募でもサービス業、製造業における採択件数は堅調だったといえるし、地域的にもバランスよく分布していると考えている。また、補助金額も上限ギリギリの50万円まで申請しているケースが予想以上に多く、採択件数は当初想定していた13万件から下振れして11万件ほどに落ち着くのではと想定している」として、補助金制度のポテンシャルをフル活用する申請者が想定外に多かったことをポジティブな要素として捉えているようだ。さらに、「ベンダーにもヒアリングしているが、17年度補正事業から新しくIT導入支援事業者して登録されたベンダーなどは、社内の調整や顧客にあたる申請者との調整が一次公募には間に合わなかったという声も聞いている」として、二次公募以降で採択件数が伸びる要素はあると強調する。
 
 

ユーザー、ベンダー双方
にとって魅力が下がった?

CSAJ
荻原紀男
会長
 一方で、ITベンダー側からは現状に対する厳しい視線が目立つ。16年度補正予算でのIT導入補助金創設に主導的な役割を果たしたコンピュータソフトウェア協会の荻原紀男会長(豆蔵ホールディングス会長)は、「前回は二次公募も(多くの会社にとって年度末である)3月末までの決裁に間に合うように補助金が下りるスケジュールだったが、今回は年度初めの4月にスタートしたので、エンジンがかからなかったのは事実」と一次公募の時期が逆風の要因だったと分析しつつ、より深刻な課題があることも指摘する。それは、補助金額と補助率の上限が下がってしまったことだ。上限で比べると、16年度補正のIT導入補助金では150万円のソフトを導入する場合、ユーザーは50万円を負担すれば済んだのが、今回は100万円の投資に対して50万円を負担しなければならないことになる。

 荻原会長は、「補助金と補助率の上限が下がったことでユーザー側の投資意欲が下がってしまったのはもちろん、ベンダー側もIT導入補助金を利用した提案が営業コストに見合わなくなったケースが増えている」と話す。補助対象ツールとして登録されているソフトウェアのメーカーや導入支援事業者として登録されている事務機ディーラー、SIerなどからも同様の声が聞かれる。加えて、「対象ツールの乱立により製品中心の補助制度になってしまっていて、どのツールを選べばどういう効果があるのかユーザー企業側が判断するのが難しい状況になってしまっている」ことも課題だという。

 ただし、法人向けITビジネスの市場拡大を図りたい業界団体側も、この制度をしっかり活用する流れをつくり、定着させたいという思いは変わらない。「前回の補助金で採択されなかったユーザーを救いたいということで、500億円あればそれも可能だろうと見込んで国に働きかけをしてきた。なんとか使い切って次につなげないといけない」(荻原会長)という問題意識はもっている。荻原会長は、「何を救わなければならないのか、もっと具体的に考えて制度に落とし込むといいのでは。『こんなツールを活用したらこんな効果が出た』というような業種ごとの事例モデルを、CSAJも含めて業界を挙げてつくっていく必要がある。パッケージ化された商材の新規ユーザーを足で営業して開拓していくのではなく、ある程度インバウンド型の営業・マーケティングで新規顧客とのパスができるようになると制度もうまくまわっていくだろう。また、生産性向上が喫緊の課題になっている業界は補助率を上げたり、ハードウェアやセキュリティ商材も補助対象にしていくことも考えるべき」と話す。
 

ツールやベンダーの実力を
早急に可視化すべし

 経産省の平川総括係長も、「どんな課題に対してどんなツールの効果が高く、どんなIT事業者がいい提案をしているのか、可視化していくことが大切」と強調する。16年度補正事業のフォローアップ結果を踏まえて、業種ごとのITツール導入成功事例を「今夏中をめどに読み物としてウェブサイト上に整備していく」予定だ。

 一方で、「制度そのものの認知度がまだまだ低いと感じる」(平川総括係長)という実態もまた現実だ。経産省としても、全国47都道府県で地元商工会や地元メディアなどと連携してセミナーを開催し、申請者となるユーザー企業、ITベンダー、士業など中小企業・小規模事業者の経営を支援する人材向けに、地道かつ幅広い情報提供を図っていく方針だ。

 二次公募は8月3日までで、交付決定日は8月15日。三次公募は8月中旬から10月上旬まで、交付決定日が10月中旬の予定。採択件数が順調に伸びるかどうか、まずは二次公募の結果が試金石になる。

IT導入補助金とは
総額は大幅アップも補助率は2/3から1/2に
補助額上限も100万円から50万円に減額

 正式名称を「サービス等生産性向上IT導入支援事業」という経済産業省の施策。2016年度補正予算で初めて創設され、17年度補正予算でも財源が確保された。業務効率化や売り上げの向上に資するITツール(ソフトウェア、サービスなど)が対象で、ハードウェアやセキュリティ関連商材は対象外。補助金総額は16年度補正予算では100億円、17年度補正予算では500億円と大幅増となったが、補助額上限は100万円から50万円に、補助率も3分の2から2分の1に下がった。

 ITベンダーやITサービス事業者は、「IT導入支援事業者」として事務局に登録した後、パッケージソフトやクラウドサービスなどの「ITツール」を別途登録。ユーザーであり制度の申請者である中小企業や小規模事業者に対して、登録ITツールの導入提案や、各種申請の代行などを行うことができる。