NTTグループの海外事業再編は、SIer最大手のNTTデータにとってどのような影響をもたらすのか――。今回の再編は、海外事業に強いグローバル主要3社の連携を促していくことで、海外での存在感を高める効果を狙ったものだ。その一方で、NTTデータが掲げている「マルチキャリア」の基本方針と相いれない部分も出てくる。NTT持ち株会社は「NTTデータは独立した現状を維持する」ことを明言するものの、現状維持では再編効果が限定的になってしまう恐れもある。NTTデータにとってもろ刃の剣となりかねない再編を、どうプラスにもっていくのかが課題といえそうだ。(安藤章司)
「キャリアフリー」で相乗効果を引き出せるか
海外会社傘下にコムとディメンション
海外事業の再編は、まず今年秋をめどに中間持ち株会社「NTT」を新設。この下にNTTデータとNTTコミュニケーションズ、ディメンションデータの海外事業に強い主要3社、ならびにNTTセキュリティと北米研究開発会社も傘下に入れる。NTTグループの海外売上高の規模は、直近で195億ドル(約2兆1500億円)。海外でまとまった売り上げを確保している3社を中心に中間持ち株会社の下に置くことで、海外での存在感や競争力を高めるのが狙いだ。
さらに来年夏をめどにNTTコムとディメンションを中心とした事業を海外と国内でそれぞれ統合することを検討。実現すれば、通信キャリアであるNTTコムと、NIerであるディメンションの一体化によって、ネットワークのインフラと構築サービスのワンストップ化が一段と進むことが期待される。
しかし、NTTデータにとっては、もろ手を挙げては喜べない事情がある。NTTデータは特定のハードベンダーや通信キャリアに依存しないマルチベンダー/マルチキャリアを標榜しているSIerである。顧客企業からみても、NTTデータに発注すると通信キャリアを選べない状況では、業者選定の候補から外されるリスクも否定できない。NTT持ち株会社もそうした事情を把握しており、一連の再編でNTTデータについては、現在の経営形態を保つとともに株式上場も維持することを明言している。
国内ではNTTデータとコムに温度差あり
NTTデータとNTTコムは、国内では表だっての協業はこれまで控えてきたようにみえるが、今年4月に新たに開業した三鷹データセンター(DC)では、珍しく両社で共同事業を立ち上げた。NTTデータが運営する三鷹DCに、NTTコムの企業向けクラウドサービス「Enterprise Cloud」を誘致。両社の販売チャネルを通じて2020年までに1000億円規模の売り上げを目指すという内容だ。
それに先立ち、昨年8月に開いた事業説明会では、Enterprise CloudをNTTデータに全面的に取り扱ってもらいたいと意気込むNTTコムを尻目に、NTTデータの山口重樹常務(現副社長)は、特定の通信キャリアに依存しないキャリアフリーのSIerとしての方針は変えない方針をあらためて示した。
国内と海外にそれぞれ統合会社をつくることを検討する背景には、国内では無理に連携させずとも、従来どおりのNTTデータとNTTコムの距離感でビジネスを伸ばせるとの思惑も見え隠れする。
また、海外ビジネスを統括する会社を別に分けることで、NTT法に抵触しないかたちで優秀な外国人経営者を招聘することも容易になる。今回の再編の主眼が海外市場を向いていることからも明らかなように、名実ともにグローバルビジネスに特化した事業会社集団にしていくことを視野に入れている。
海外での意思疎通をより円滑に
実際、これまでも海外では、グループが勝ち残るために必要な手段として、戦略的に3社連携を推進してきた。その成果として、海外事業会社間でのクロスセル受注額は、昨年度まで累計34億ドル(約3700億円)に達している。NTTコムとディメンションがまとまることで、NTTデータとの意思疎通もより円滑化する可能性もある。
過去10年来、NTTデータは海外SIerのM&Aを積極的に展開し、NTTグループの海外ビジネスの一翼を担うようになった。今回の再編で、NTTデータを海外主要3社のなかに入れ、NTTデータの独立経営を明言する方針を打ち出したのは、NTT持ち株会社がNTTデータの海外M&Aの成功を認めたからにほかならない。グローバル志向の通信キャリアであるNTTコムと、自力でグローバルSIerへと這い上がってきたNTTデータ。これにNTTグループとは出自が異なるディメンションが、海外で一段と相乗効果を出せるよう再編できるかが、この1年間のNTTグループの勝負どころとなる。