日本IBMの主導で、中小企業の会計システムと金融機関につなぐFinTechプラットフォーム「会計データ・オン・クラウドプラットフォーム」の検討が始まる。3大メガバンクとりそな銀行、地銀も合わせた35の金融機関と13社の会計ソフトベンダーなどが参画する。近年の法改正により、銀行にとってオープンAPIの取り組みは努力義務になり、オープンイノベーションによるFinTechソリューションで顧客に新たな価値を提供しようという流れが強まっている。会計ソフトベンダー側でも、金融機関とのAPI連携によるFinTechへの取り組み事例は増えている。多くのプレイヤーを巻き込み、プラットフォーマーとしてエコシステム構築に着手した日本IBMは、FinTechプラットフォームのデファクトスタンダードを確立できるか。(本多和幸)
会計ソフトベンダー13社と主要銀行を巻き込む
会計データ・オン・クラウドプラットフォームが当面目指すのは、金融機関向けに、融資先の中小企業の決算報告書を統一フォーマットのデータで提供するサービスの実現だ。現状は、各企業や顧問税理士が会計ソフトを利用して作成した決算書を紙に印刷して金融機関に提出し、これを金融機関側が自行のシステムに登録するという流れが一般的だ。まずは金融機関の業務効率化と働き方改革を支援する。日本IBMと35の金融機関、会計ソフトベンダー13社、企業財務分析システムベンダー2社などは、会計データ・オン・クラウドプラットフォームの検討協議会を組織し、サービス実現のための「業務の流れやシステム要件、APIの有効性などを検討する」としている。
サービスのアーキテクチャーとしては、日本IBMがIBM Cloud上にポータル機能などサービスの中核となる機能を構築し、中小企業はプロジェクト参画ベンダーの会計ソフトで作成した決算データをポータルを通じてIBM Cloudに送る。この時点では、会計ソフトごとにアウトプットのフォーマットが異なるが、これを同プロジェクトの協業ソリューションベンダーであるYKプランニングがMicrosoft Azure上で提供するデータ変換処理サービスで共通フォーマットにそろえる。その上で、データをIBM Cloudに戻して金融機関側に渡すという流れだ(図参照)。
このプロジェクトをリードする日本IBM新規事業開発責任者の河村洋一氏は、「IBM Cloudへの囲い込みは考えておらず、有効なサービスとマルチクラウドで連携していけばいいと考えている」と話す。
弥生、TKCなど未参加の有力ベンダーの動向がカギ?
協議会に参画する35の金融機関は、必ずしもIBMのユーザー企業というわけではない。金融機関側は、会計データ・オン・クラウドプラットフォームから得たデータを、TISと三井情報が提供する企業財務分析システムで参照するかたちになるため、IBMはデータの蓄積と流通に特化した役割を担うことになる。河村氏は、「基本的にIBMは“土管”の役割。例えば、中小企業の会計データやサービスの認証データなどは保持することになるが、データの分析はせず、それは金融機関やサードパーティーのサービサーに任せる」と話す。
プラットフォームの仕様そのものは今年2月中に決定し、2020年4月にサービスのローンチを目指す。また、あくまでも決算報告書提出のデジタル化サービスは同プラットフォームを活用したサービスの第一弾という位置付けであり、将来的にはさまざまなサービスの拡大も構想している。「融資の申し込みや契約なども含めて、融資のライフサイクルを全てこのプラットフォーム上でデジタル化して完結させることも可能だと考えている。会計データ・オン・クラウドプラットフォームの認証基盤を精度が高い法人認証基盤として外部提供することも考えられる」と河村氏は話す。
日本IBMは、会計データ・オン・クラウドプラットフォームを中小企業向けFinTechサービスのプラットフォームとして、デファクトスタンダードにしたいと考えている。現時点で協議会にはメガバンクを含む主要銀行と複数の有力会計ソフトベンダーが参画しており、それも不可能な話ではないように思えるが、課題は「弥生やTKCなど、自社で決算報告関連のデータ提供や会計データを活用した融資サービスなどを手掛けている大手会計ソフトベンダーを取り込むことができていないこと」だという。河村氏は、「例えば会計ソフトから銀行口座への振り込みが完了できるようにする更新系APIの連携などを、会計データ・オン・クラウドプラットフォームがハブとなって加速させられる可能性もある」と強調。会計ソフトベンダーに対しても大きな付加価値を提供できるというメリットを前面に押し出し、会計データ・オン・クラウドプラットフォームのエコシステムを拡大していく。