日本ヒューレット・パッカード(HPE)が、OT(Operational Technology、制御技術)市場への本格進出を発表した。ITとOTの両プロトコルに対応したエッジ処理マシンと、統合管理ソフトを合わせて提供する。IT/OTの両領域をカバーできるハードウェアとソフトウェアを用意することで、製造業向けのIoTで先行している国内の電機メーカー・工作機器メーカーを追撃する。(日高 彰)
OT領域も一括管理できるソフトを提供
産業用PCとは異なるカテゴリー
HPEは2月8日、「Edgeline」シリーズの新機種を発売した。これは、工場や社会インフラ設備など電子機器にとって厳しい環境にも設置できるエッジコンピューティング用マシンで、センサーから収集したデータを、データセンターやクラウドに送る前に処理することを目的としている。類似の製品は、これまでも多くのハードウェアベンダーから「産業用コンピューター」などの名称で提供されているが、HPEはEdgelineシリーズをあえて「コンバージド(統合型)エッジシステム」と呼び、従来の産業用のPC/サーバーとは異なる新カテゴリーの製品として売り出している。
HPEはEdgelineシリーズを、ITとOTを統合して運用できるシステムと定義する。工場の生産ラインや社会インフラでは、イーサネットや無線LAN以外のネットワーク技術やプロトコルによって制御を行うシステムが多数存在する。Edgelineシリーズは、そのようなITの世界から見ると特殊なインターフェースにも対応する。従来は、工作機械や監視センサーのデータを分析するために、ゲートウェイ機器やドライバーソフトを用意する必要があったが、Edgelineシリーズの新製品では、単一のプラットフォームでデータの収集から分析まで対応できるという。
「Edgeline」シリーズの新機種を発表する
米ヒューレット・パッカード・エンタープライズの
トム・ブラディシッヒ バイスプレジデント
米ヒューレット・パッカード・エンタープライズでエッジ・IoTシステムおよびコンバージドサーバー部門を統括するトム・ブラディシッヒ バイスプレジデントは「コスト、応答時間、ネットワーク帯域、セキュリティーなどの理由から、エッジで取得したビッグデータは、データセンターやクラウドに送るよりもその場で処理するほうがいい」と述べ、現場に設置できるコンピューティング能力が求められているが、スペース、コスト、管理の手間などを考えると、IT領域とOT領域で別々の機材を導入するよりも、統合型製品のほうが有利だと強調する。
OTパートナーを通じても販売
国内でも、大手電機メーカーや工作機械メーカー各社は、製造業向けを中心にIoTソリューションの導入を数年前から積極的に推進している。「ITとOTの統合」というコンセプトそのものに新鮮味は感じられないが、この指摘に対してブラディシッヒ氏は「ITとOTをまったく同じレベルで管理できるのは当社の製品だけだ」と主張する。
Edgelineは2016年に立ち上げたシリーズだが、これまではITとOTを同一きょう体に搭載した製品の提案にとどまっていた。今回HPEは、遠隔で動作状況の監視やソフトウェアの送り込みを行える管理ソフトや、外部システムとの連携を容易にする「OT Linkプラットフォームソフトウェア」など、ソフトウェア群の充実を図る(5月までに順次販売予定)。センサー類の接続、データ収集から運用・分析まで、必要となるハードとソフトをプラットフォームとして提供することで、オーダーメイドで構築する必要のあったIoTソリューションの導入負荷を下げる。
また、従来の産業用PCがIoTに用いられる場合、軽微なデータ加工や、クラウドへのゲートウェイ機能が用途の中心だったが、EdgelineシリーズにはXeonプロセッサーなど、エンタープライズサーバーと同じスペックをもつ機種が用意されている。Edgelineシリーズのベータ版ユーザーとしてHPEと協業したキヤノンは、工場の生産ラインなどに設置した数十台のネットワークカメラの映像を分析し、カメラ映像と設備制御を連携させるソリューションを開発した。認識結果に応じて工作機械の動作を変化させたり、逆に工作機械側からエラーが上がった際に、その前後数分の映像を即座に切り出して表示したりといった負荷の高い処理を、生産ラインの近傍で行うことができる。
Edgelineシリーズは従来のHPEパートナーに加え、工場・施設オートメーションシステムやセンサー機器など、OT商材の販売を手掛けるベンダーを通じて提供していく方針。国内の産業用IoT市場への進出にあたって、製品のみならず販売パートナーに関してもITとOTの統合を図ることができるかがキーポイントとなる。