デジタルマーケティングで最先端を走るネットイヤーグループと、SIer最大手のNTTデータがタッグを組んだ。ネットイヤーグループの“顧客体験”づくりのノウハウと、NTTデータの強力なシステム構築力を融合。ユーザー企業がもつ経営リソースや組織力を統合して、エンドユーザーの新しい“顧客体験”につなげていく。折しも、売り上げや利益に直接的につながる「攻めのIT」に向けて、ユーザー企業のITニーズは一段と高まっている。両社はより統合されたサービスやシステム作りによって、こうしたニーズに応えていく。ネットイヤーグループの石黒不二代代表取締役社長兼CEOと、NTTデータの有馬勲・執行役員ITサービス・ペイメント事業本部長に、目指すべき将来像を語ってもらった。(取材・文/安藤章司 撮影/松嶋優子)
「売り上げを倍増できる」と直感
およそ3年の間、協業関係にあったネットイヤーグループとNTTデータですが、この3月、より一段と深い資本業務提携に踏み込んだのはなぜですか。
石黒 一言でいえば、NTTデータと協業して、「これはイケる」と手応えを感じたからです。NTTデータは企業間のB2B、個人向けのB2Cを問わず、幅広いシステムを構築しており、これに当社のナレッジが加わることで「売り上げを倍増できる」と直感しました。
NTTデータと協業して
「これはイケる」と手応えを感じた
ネットイヤーグループ
石黒不二代
代表取締役社長兼CEO
名古屋大学経済学部卒業。米スタンフォード大学MBA取得。
1999年にネットイヤーグループのMBO(経営陣による買収)に参画。2000年から現職。
日本で最初にSIPS(戦略的インターネット・プロフェッショナルサービス)の概念を浸透させた。
有馬 NTTデータは、販売管理や顧客管理、EC(ネット通販)とあらゆる業務システムの構築を手掛けており、そこには大量のデータが蓄積されています。ユーザー企業はデータを溜めたいわけではなく、データを活用して、これまでになかった“顧客体験”を創造し、売り上げや利益を伸ばしたい。こうしたニーズにしっかり応えていくための提携です。
基幹システムを長くやっていると、ややもすればシステムをつくって満足してしまう傾向があるのですが、ネットイヤーグループとタッグを組むことで、ユーザー企業の本当にやりたいことが、より推し進めやすくなります。
協業を通じて「B2B2X」を実現する
システムをつくって納品して終わり、ではなくて、そのシステムによってユーザー企業が稼ぐところまでがビジネスである、と。
石黒 ユーザー企業が新規事業を立ち上げたり、既存ビジネスを成長させたりするのに、システムを一段と戦略的に使うようになってきていると肌で感じています。「日本のユーザー企業は既存システムの維持費の割合が高く――」などといわれていますが、そうでないユーザーも着実に増えている。
結果的に既存システムに手を入れて、データを効率よく活用できるようにしたり、新しいシステムに置き換えたりと、なんやかんやでシステム構築の需要が高まっています。ありがたいことに、こうした引き合いをたくさんいただくのですが、当社はNTTデータと違って、大規模な基幹業務システムをゴリゴリと作り変えていくことが、社員の頭数からして難しい。
有馬 NTTグループでは、ユーザー企業のその先の顧客まで見据えたデジタル化を「B2B2X」と言っています。これまでのNTTデータは「B2B」だったのですね。その先の顧客企業やエンドユーザー、もっと広く言えば生活者、市民までを含めた「X」にしっかり価値を届ける。この「B2B2X」を実現していく上でも、ネットイヤーグループとの協業を進めていくべきだと考えていました。
ネットイヤーグループ創業当初からの
“ウォッチャー”だった
NTTデータ
有馬 勲
執行役員
ITサービス・ペイメント事業本部長
ネットイヤーグループとの資本業務提携の推進役を担う。
1990年代後半からSIPSの価値に着目。流通・サービスビジネスユニット長などを経て現職。
山口県生まれ。デジタル技術を活用した流通・サービス業の顧客体験の創出に造詣が深い。
データを分析して、そこから理想的な顧客体験を見つけ出す仕組みは、思っている以上に大がかりなシステムになります。継続的なアップデートによってデータの活用範囲を広げていき、接客レベルを高める。将来的には機械学習を使って、より一貫した体験を自動的に作り出していくところまでもっていかなければなりません。
「SIPS」をいち早く日本に持ち込む
有馬さんは、今回のネットイヤーグループとの提携を推進してこられた立場だと聞いています。どのような経緯だったかを教えていただけますか。
有馬 実はネットイヤーグループの創業当初からの“ネットイヤーグループウォッチャー”だったのですよ。90年代後半からインターネットビジネスが勃興し、インターネットを戦略的にビジネスに活用する「SIPS(シップス)」という言葉が生まれ、米国で創業したネットイヤーグループはSIPSの概念をいち早く日本に持ち込んだ会社でした。
その当時、私は事業戦略室の課長代理で、ネットイヤーグループを含むSIPS系のベンダーのベンチマークをして、できればNTTデータにもそうしたノウハウを取り入れたいと考えていました。
石黒 えっ、それは初耳です。20年も前からウォッチされていたなんて驚きました(笑)。
私は、インターネットの勃興から最初の10年で既存ビジネスや既存システムとの融合が進むと見ていましたが、国内では予想以上に時間がかかりましたね。しかし、ここ10年を振り返ると着実にビジネスがデジタル化しています。端的な例を挙げますと、消費者が日常的に接するメディアのうち、半分余りをデジタルメディアが占めるようになってきています。スマートフォンの普及の影響が大きく、10年前に比べてデジタルメディアの接触比率が大幅に拡大。商品やサービスを提供する企業側も呼応してシステムを見直し、そこから得られるデータから、新しい顧客体験を創り出そうとしています。
「攻めのIT」は複雑で大規模に
お二人にお聞きします。企業の情報システムは、今後どのように変化し、ITベンダー側には、何が一番求められるようになるとお考えですか。
石黒 分かりやすく言えば「守りのIT」から「攻めのIT」に比重が移っています。「攻めのIT」は、企業の持てるリソースをフルに活用して、これまでになかったような顧客体験を作り出したり、これによって自社の商品やサービスに興味をもってもらい、購買に結びつけていくカスタマージャーニーを演出するもの。ユーザー企業の経営層や情報システム部、事業部門が一体となって取り組むことになるため、必然的に複雑で、かつ大規模にならざるを得ない。従前のアプローチでは上手くいきません。
有馬 NTTデータの看板商品の一つにカード決済総合ネットワーク「CAFIS(キャフィス)」があります。これまで決済というのは、いかに早く確実に行うかが価値であり、顧客体験という観点では、文字通り決済するその瞬間しかサービスを提供できなかったわけです。早く確実に行うのが顧客体験と言えばそれまでですが、将来はショッピングそのものの体験を変えていくくらいの変革がやってくると思っています。
石黒 ショッピングについては、私もそう思いますね。カスタマージャーニー全体が満足のいく顧客体験でなければなりません。ユーザーは実店舗やネットという買う場所や、先払いや後払いの決済方法を意識せず、ほしいものをより自然なかたちで手に入れられるオムニチャネルが一層浸透する。今の現金だ、ICカードだ、QRコードだ、などが入り乱れた状態から、もっと統合されたかたちになると思います。
統合されたサービスで価値を高める
両社が補完し合うことで、より統合されたサービスを提供できると。
有馬 そうです。基幹系や情報系、外部のクラウドサービスといったシステム面だけでなく、ユーザー企業の組織そのものも統合的に運用していく必要があります。
実はベンダー側もコンサルティング会社や広告代理店といった経営戦略やマーケティング領域のサービスと、システムを作り込むSI領域のサービスを統合的に提供していかないと、思うような結果が出せない。先述の「B2B2X」も、ユーザー企業のその先の顧客体験まで統合されたサービスを提供することで価値を高める戦略です。
石黒 今回、NTTデータとより深く提携することを決めたのも、まさにこれまでになかったような新しい顧客体験を作り出すために複雑化、大規模化する顧客ニーズに応えていくためです。ユーザー企業が「攻めのIT」で思い描くデジタルマーケティングやオムニチャネルの設計、システムの作り込みから運用、そしてエンドユーザーの顧客体験に至るまでを一緒に作り出していきます。当社だけではできなかったことが、NTTデータと組むことで実現できると確信しています。
本日は、ありがとうございました。
協業の経緯
ネットイヤーグループとNTTデータは、2016年から流通・小売業界向けのオムニチャネル構築の分野で協業してきた。今年3月、この協業をより強固なものにするため、NTTデータはネットイヤーグループの株式公開買付けを実施。ネットイヤーグループの東証マザーズ上場を維持しつつ、連結子会社に迎え入れた。ネットイヤーグループの19年3月期の連結売上高は55億円。従業員数は約300人。NTTデータの19年3月期の連結売上高は2兆1636億円、従業員数は約11万8000人。ネットイヤーグループはNTTデータとの協業効果を踏まえて、20年3月期の売上高は前年度比12.4%増の62億円を見込んでいる。