【ラスベガス発】米アマゾン ウェブ サービス(AWS、アンディ・ジャシーCEO)は12月2日から6日まで、米ラスベガスで年次プライベートイベント「AWS re:Invent 2019」を開催した。ジャシーCEOの基調講演は3時間にも及ぶ熱演で、例年どおり、20を超える新発表を披露。クラウドネイティブな革新者として市場と顧客の変革をけん引し続け、これからもその立場を堅持するという矜持が覗く内容となった。(本多和幸)
ジャシーCEO「正しいツールで正しい仕事を」
「選択肢」の裏付けとなる コンピュートの進化を追求
「デマンドドリブン」でユーザーに幅広い選択肢を提供する――。AWSが一貫して主張してきたメッセージだが、近年は競合するクラウドベンダーも類似のメッセージを発信するようになっている。ジャシーCEOはそうした状況も意識してか、「AWSは175以上のサービスを提供している。それでもAWSと同じような機能は全て提供できると言っている競合ベンダーはあるが、数だけでなく、機能の幅広さ、深さが全く違う」とコメント。本質的な選択肢の多さこそ、AWSが多くの顧客に選ばれる理由であることを示唆した。
アンディ・ジャシーCEO
ジャシーCEOが言うところの「機能の幅広さ、深さ」を裏打ちする要素として特に強くアピールしたのが、AWSのさまざまなクラウドサービスの土台となるコンピュートの進化への注力だ。昨年のre:Inventでは、ARMベースのプロセッサー「AWS Graviton」を独自開発し、これを搭載してスケールアウト型ワークロードのコストを従来比で45%削減可能にしたという仮想サーバー「EC2」の「A1インスタンス」を発表。今年は早くもARMベースのカスタムプロセッサーの第2弾として、「AWS Graviton2」を発表した。初代Gravitonに比べて7倍の性能で、4倍のコンピュートコア数、5倍高速なメモリを搭載しているという。Graviton2を使ったサービスとしても、用途別に三種類の新たなEC2のインスタンスタイプを用意。ジェシーCEOは、インテルとのパートナーシップやx86サーバーベースのサービスの価値を否定しないとしつつも、「より安く、よりパフォーマンスの高い独自のチップセットを充実させた」として、多様なニーズに応える選択肢を用意したことを強調した。また、機械学習の推論をより速く、低コストで実現するためのカスタムチップを搭載した新たなEC2インスタンスも発表した。
また、AWSはコンピュートの進化の観点では、2017年のre:InventでEC2の次世代基盤「Nitro System」を発表していた。ジャシーCEOの基調講演では、フルマネージドのデータウェアハウス(DWH)サービスである「Redshift」についても、Redshiftのコンピュートとストレージを分離してスケールアウトし、DWHのコストを最適化できる新たなインスタンスや、Nitro Systemによりコンピュート部分のパフォーマンスを向上させ、コストの増加なしに「他のクラウドデータウェアハウスに対して10倍高速化する」アップデートを発表。まさに、コンピュートの進化を追求することで、クラウドサービスの選択肢を増やしたかたちだ。「顧客にとって正しいツールが存在してこそ、正しい仕事ができる」とジャシーCEOは力を込めた。
既存の大手ベンダーとは
どこまでも一線を画す
ジャシーCEOはクラウド市場の現状にも言及し、米ガートナーが作成・発表している最新のIaaS市場のマジッククアドラントを紹介。すでにグローバルのIaaS市場でメインプレイヤーと目されるベンダーはAWSのほかにマイクロソフト、グーグル、アリババクラウド、オラクル、IBMだけだが、マイクロソフト、オラクル、IBMは、クラウドネイティブなベンダーにはないオンプレミスの強固な既存顧客基盤がある。彼らはそれをテコにクラウド市場でシェア拡大を図ろうとしており、実際にクラウド市場における存在感は高まりつつあるようにも見える。
そうした動きをけん制するように、ジャシーCEOはIBMが現在も製品開発を続けているメインフレーム、オラクル製品が市場のデファクトスタンダードとなっている商用RDB、そしてマイクロソフトのWindowsを槍玉に挙げ、「システムのクラウド変革やモダナイゼーションにおいて、こうした古い制約はディベロッパーの活動を妨げるもの。引っ越す時に捨てる荷物のようなもので、それらに代わるソリューションを市場に提供してきたのがAWSだ」とアピール。引き続きクラウド市場のイノベーションをリードする存在であり続けたいという意思を滲ませた。
IBM、Oracle、Microsoftは引っ越す時に捨てていくもの?