「ゼロックス」ブランドと決別し、「富士フイルム」ブランドで新たな市場の開拓に挑む方針を明らかにした富士ゼロックス(週刊BCN 1808号で既報)。現在は米ゼロックスと技術/ブランドライセンスや販売テリトリーなどを規定した「技術契約」を結んでいるが、2021年3月末を期限とするこの契約は更新せず、社名も「富士フイルム ビジネスイノベーション」に変える。1年3カ月後の新たな枠組みでのビジネス発足までに、どのような準備をして、どんな戦略で成長を目指すのか。富士ゼロックスの玉井光一社長が、週刊BCNの単独インタビューに応じた。(本多和幸)
玉井光一
社長
今回の決定に至るまでの動きをおさらいすると、まず18年1月に、富士ゼロックスの親会社である富士フイルムホールディングス(HD)が米ゼロックスを買収して同社と富士ゼロックスを経営統合すると発表した。しかしその後、米ゼロックスが合意を一方的に破棄。結果的に昨年11月、富士フイルムHDは富士ゼロックスを完全子会社にして、富士ゼロックスにおける米ゼロックスとの合弁を解消する形で決着。富士フイルムグループ単独で複合機を中心とするオフィスドキュメント領域のビジネスの成長を図る方針を決めた。そして1月6日、富士ゼロックスは米ゼロックスと交わしていた技術契約を21年3月末で終了する方針であることを発表した。
この技術契約により、これまで両社はそれぞれが開発した技術を相互に利用できる関係を続けてきたほか、富士ゼロックスがアジア太平洋地域で「富士ゼロックス」ブランドによる販売を、米ゼロックスがその他の地域で「ゼロックス」ブランドによる販売を担当するという役割分担も行ってきた。これらの関係も解消される。
この決断の背景について玉井社長は、「複合機の市場はフラットもしくは微減で推移している。これ以上ビジネスを大きくするにはシェアを増やす必要があるが、米ゼロックスとの技術契約により、当社のテリトリーはアジアとオセアニアに限られていた。世界でもっと広いエリアを攻めるべきだというのが、富士フイルムグループ単独でビジネスをやっていくと決めた最も大きな理由」と説明。現時点で富士フイルムグループにとってベストの選択をした結果が現在の形だったと強調する。
一方で、市場にすでに浸透しているゼロックスブランドと決別し、今後は競争相手として戦っていかなければならなくなる。玉井社長は「懸念事項であることは否定しない」とするが、「富士フイルムは世界で知られている日本企業。その高い認知度で十分に戦っていけると判断したからこそ、今回の決断ができた」と話す。
「市場をゲームチェンジできる
ような新商品」も準備
では、具体的にどのように新体制での成長戦略を描いているのか。焦点となるのは、これまで米ゼロックスが販売を担当してきた地域でどう市場を開拓していくかだ。玉井社長は、「現地法人の新設や拡充、販路の整備などはお金も労力もかかり、簡単にできるとは思っていない」とし、「まずはOEMビジネスの拡大からスタートする」と説明する。
現在、富士ゼロックスは米ゼロックスに対して複合機など多くの主要取扱製品を供給しており、その関係は技術契約終了後も続くが、今後は米ゼロックス以外にも同様の製品提供ができるようになる。昨年11月の米ゼロックスとの合弁解消以降、すでに国内外の複数の複合機メーカーから、OEM供給を受けたいという打診がきている状況だ。玉井社長は、「お声がけいただいたメーカーからは、世界のメジャーな複合機メーカーの機械を比較してみて、最も頑強・頑健なのが富士ゼロックスのものだったという評価をいただいている」として、まずは同社の技術を他社へのOEM供給を通じてより広く市場に浸透させていく意向だ。
これと並行して富士フイルムの独自ブランド製品をアジア太平洋地域だけでなく、米欧を含むその他地域で拡販していく取り組みも進める。キーポイントとなるのは、富士フイルムグループの資産をいかに活用できるかだという。「富士フイルムはワールドワイドで大きな拠点がすでにあり、それを活用しないのはもったいない。従来の富士ゼロックスのビジネスとは事業ドメインが違うという指摘もあるだろうが、富士フイルムには(印刷業界向けに総合的なソリューションを提供する)グラフィック事業もあり、特に欧米の市場ではドキュメントソリューションと極めて近しいビジネス。この資産を最大限生かして富士フイルムグループとしてのシナジーを発揮できれば、新たに進出する地域でもオリジナルブランドの勝算は十分にある」(玉井社長)
海外市場、特にアジア太平洋地域以外での販路の拡充では、販売会社のM&Aなども視野に入れる。玉井社長は、米ゼロックスとの技術契約が終了する21年3月までに、顧客やパートナー企業、さらには自社従業員も含めて、新たな枠組みで同社のビジネスがどのように変化するかを時間をかけて説明していく方針。「大きな変化なので、移行期間が短いと軋轢も大きくなる」という。さらにこの準備期間では、新社名である富士フイルム ビジネスイノベーションとしての門出を飾る「世の中にない、市場をゲームチェンジできるような新商品」の開発を進め、21年4月以降に御披露目する予定だ。