アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)は1月20日、メディア向けの説明会を開き、2021年初頭にAWSの大阪リージョンを開設すると発表した。18年に開設した「大阪ローカルリージョン」を拡張し、ミッションクリティカルなワークロードへの対応など、国内顧客からのさまざまな要件に応えられるようにする。これを受けて、ソニー銀行が勘定系を含め、全面的にAWSの利用拡大を検討していくことを決定したと明らかにした。(前田幸慧)
AWSジャパンの長崎忠雄社長(右)とソニー銀行の福嶋達也執行役員
AWSはグローバルのクラウドインフラを「リージョン」と「アベイラビリティゾーン(AZ)」の区分で整備している。AZは一つ以上のデータセンターの集まりを指し、複数のAZによってリージョンが構成されている。現在、AWSは世界で22のリージョン、69のAZを展開している。
日本国内では、11年に東京リージョン、18年には大阪に「ローカルリージョン」を開設した。このローカルリージョンは、複数のAZから成る通常のリージョンとは異なり、一つのAZで構成されており、提供されるサービスが限定され、利用する際も東京リージョンとの併用が前提だった。
この大阪のAZを二つ増やし、東京などと同様の通常リージョンとして「21年初頭」(AWSジャパンの長崎忠雄社長)に開設する。これにより「使えるAWSサービスのラインアップが増える。お客様は東京リージョン、大阪リージョンの二つのリージョンを、ニーズに合わせてお使いいただけるようになる」と長崎社長は説明。国内で複数のAZの利用を可能にしたことで、可用性や耐障害性を高めることが可能になり、「ミッションクリティカル系のワークロードを違う拠点でアクティブに利用できる」などのメリットがあるとしている。
金融機関が銀行インフラに
本格活用へ
大阪リージョンの開設に伴い、金融機関でも銀行業務での利用に耐え得るインフラとして評価し、採用を検討する企業が出てきている。ネット銀行を運営するソニー銀行は、かねて導入していたAWSの利用範囲を、勘定系を含む全てのシステムへ拡大する方針だ。
ソニー銀では、13年から社内システムおよび勘定系を除く銀行周辺システムでAWSを活用。17年には大阪ローカルリージョンの開設を受けて、勘定系の一部である財務会計システムを本体から切り出して別システム化するプロジェクトをスタートし、19年秋に移行を完了。現在は財務会計システムをAWS上で稼働させ、大阪をバックアップサイトとして運用しているという。
これらによる効果として、従来のオンプレミスと比較して「トータルのインフラコストでおおむね50%、多い場合は60%程度のトータルコスト削減を実現。インフラ導入・構築期間も半分以下になった」とソニー銀の福嶋達也執行役員は話す。
ただし、勘定系システムで全面的にクラウドを採用する上では国内での可用性向上が必須で、「第2リージョンが必要だった」(福嶋執行役員)として、AWS採用当初からAWSに要望していたという。そして、21年に大阪リージョンが開設されることを受けて、業務的な制限をかけず勘定系を含む全業務でAWS利用を検討していくことを昨年12月に決定した。
「AWSを全面的に採用することを前提に、勘定系システム、インターネットバンキングや情報系も含む更改方針を検討」(福嶋執行役員)していくといい、詳細は今後詰める。現時点での構想では、「単に仮想サーバー上に勘定系システムを移植するのではなく、クラウドネイティブなアーキテクチャーとしてプログラムレベルから新たに勘定系のプログラムをつくることを検討している」と話す。
また、ソニー銀の社内業務端末で全面導入しているDaaS「AWS WorkSpaces」について、銀行業務端末にも導入拡大する方針。20年夏ごろの全面採用を予定している。
AWSパートナー数が増加
顧客支援の強化を継続
AWSジャパンの長崎社長によると、ほかにも三菱UFJフィナンシャル・グループや三井住友信託銀行、ジェーシービー(JCB)、関西電力などの企業が大阪リージョンを積極的に活用する意向を示しているという。今後は、金融機関をはじめ、大企業が運用するミッションクリティカルなシステムへのAWS採用が拡大していくとみられる。
説明会では、19年の振り返りと20年の事業方針についても紹介。AWSの認定取得数が17年から19年の2年間で3.9倍に増加し、中でもユーザー企業での取得比率が54%まで伸びたという。また、「セレクト」以上のパートナー企業数が19年時点で872社まで増加している。今年は、注力分野の一つとして全国の顧客支援強化に向けた投資を継続。金融、自動車、製造、公共など業界ごとの専門チームを拡充していくほか、全国各地のパートナー育成強化や、ISV支援部隊の発足などに取り組むとしている。