大手SIer各社は、コロナ・ショックで第2四半期(2020年7~9月期)に受注がいったん落ち込んだのち、下期(20年10月~21年3月期)には回復に向かうと見る。対面での営業活動が困難になった影響で新規顧客の開拓が滞り、その影響で第2四半期は業績の“谷”が出現。しかし、第2四半期中に正常化へ向かったと仮定すれば、「下期へのマイナス影響はある程度抑えられる」(TISの桑野徹会長兼社長)と予測する。対面営業の自粛が年末まで続くとすれば、玉突きで回復は来年度までずれ込む危険性があるものの、当面は第2四半期の落ち込みを下期でどれだけ挽回できるかが、今期業績を大きく左右すると言えそうだ。(安藤章司)
落ち込みの長期化は考えにくい
NTTデータは、新型コロナウイルスの感染拡大により日欧米の主要市場で対面営業が困難となった影響で、今年度(21年3月期)に見込んでいた連結売上高のうち「5000億円程度がまだはっきりと見えない」(本間洋社長)状況に直面している。
昨年度の受注残やITアウトソーシングなど中期的に契約を結んでいる案件、公共や金融を中心とした社会経済の維持に必要不可欠なIT投資を合算すると、売り上げの70~80%のめどはつくというが、製造業やサービス業のIT投資の一部が保留、期ずれする懸念がある。ドイツの製造業顧客を多く抱える欧州子会社をはじめ海外の変動要因が大きいものの、「08年のリーマン・ショックのときに比べて、ITの果たす役割は一段と大きくなっている」ことから落ち込みが長期化することは考えにくいとし、下期中に回復に向かうことを期待する。
野村総合研究所は、コンサルティング部門が新規顧客を開拓し、システム構築(SI)部門がシステム開発を担うフォーメーションを強みとしているが、対面営業が難しい状況では、どうしても新規顧客が開拓しづらくなり、上期業績の押し下げ要因になる。その上で「コロナの混乱が夏までに収束し、秋口から企業活動が正常化に向かえば、年明けに需要が戻る」と此本臣吾会長兼社長は見立てている。
伊藤忠テクノソリューションズは、「第2四半期は大きく落ち込む一方、下期は(受注回復で)忙しくなる」(菊地哲社長)と指摘。同社は他の大手SIerと異なりハードウェア製品の販売事業を重視する。製品販売は、受注から納品までの期間がSIに比べて短いため、「下期からの追い上げが可能」だと見る。リモートワークで需要が増えるネットワーク機器についても、「中国の(コロナ禍からの)回復によって供給不足の問題は解消に向かう」としている。
IT投資の継続意欲は根強い
TISの桑野徹会長兼社長は、「第1四半期の影響は限定的だが、第2四半期の落ち込みの“谷”がどれだけの深さになるのかまだ見えない」と話す。TIS単体は金融分野をはじめ大規模ユーザー企業向けSIの比率が高いが、インテックをはじめグループ全体を見ると中堅・中小の製造業、サービス業のユーザーも多い。コロナ・ショックの影響が大きい中堅・中小ユーザーや特定業種のユーザーが、下期にどれだけ回復できるかが今期業績を左右すると見る。グループ全体で、第2四半期の“谷”を乗り越えたのち、下期は前年同期並みか、少し上回る見通しだ。
SCSKは、予算実行のタイミングがはっきりしていないプロジェクトが200~300億円あり、この部分が今期中に実行されるかどうかを注視する。「ユーザー企業がこれまで推し進めてきたDX(デジタルトランスフォーメーション)関連の引き合いは減っていない」(谷原徹社長)とした上で、仮に対面営業の自粛が長引くようであれば“予算実行のタイミング”が後ろにずれることを懸念する。一部のユーザー企業からプロジェクトの減額要求はある一方で、客先常駐しているSCSKの「SEを解約する動きは見られない」。優秀なSEの確保は容易ではないことを踏まえ、IT投資を継続するためSE要員は確保し続けたいとするユーザー企業の意向が垣間見られる。
昨年度、売上高、営業利益とも前年度比二桁成長と大きく業績を伸ばしたJBCCホールディングス(JBグループ)だが、主力の中堅・中小ユーザー企業がコロナ・ショックを警戒してIT投資を抑制する動きが出ていることから、今年度は減収減益と見通す。ただ、需要そのものがなくなったわけではないため、コロナ収束の時期がより明確になった時点で、「IT投資を再開するユーザーが増える」(東上征司社長)と予測。中堅・中小ユーザーはIT投資を絞る決断も早いが、いったん再開を決めるとその後の回復も早いとし、「上期をうまく乗り切れば下期は手堅く推移する」と、回復に向けて期待できる部分も多いと話す。