NTT東日本は、パブリッククラウドなどを使った働き方改革を推進する新会社「ネクストモード」をクラスメソッドともに7月1日に立ち上げる。「(コロナ禍で導入が進んだ)テレワークは一過性のものではなく、今後の働き方のスタンダードになっていく」と想定し、新会社を立ち上げてテレワーク推進ビジネスに取り組む。NTT東日本のネットワークやサポート部隊、クラスメソッドのクラウド関連技術を持ち寄ることで相乗効果を生み出す。(安藤章司)
VPN+設置型システムの問題が噴出
緊急事態宣言が発出された今年4~5月、多くの企業がテレワークを導入したことにより、さまざまな課題が浮き彫りになった。VPN(仮想私設ネットワーク)に多くの従業員が接続したためネットワークがパンクし、業務アプリケーションの応答速度が極端に遅くなったり、接続できなくなったりするケースが頻出した。ある大手SIerでは、「『働き方改革』はテレワークから」と銘打って提供していたリモートアクセスサービスが接続許容量を超えたためダウン。6月に入ってもサービスを再開できず、他社サービスへの切り替えを斡旋する事態になったのは記憶に新しい。
左からNTT東日本の澁谷直樹副社長、ネクストモードの里見宗律社長(予定)、クラスメソッドの横田聡社長
NTT東日本は、テレワークのボトルネックとなるネットワークの問題点に着目。地域通信キャリアとしての強みを発揮し、新規ビジネスにつなげられると判断した。データセンターや電算室などに設置してある業務システムに接続する“中央集権型”の方式では、どうしてもその接続口がボトルネックになってしまう。新会社ではクラウドサービスやオンラインツールをストレスなく使える「“分散型”のネットワークへと変えていく支援を行う」と、新会社社長に就任する予定のNTT東日本の里見宗律氏は話す(図参照)。
とはいえ、ユーザー企業の業務をどのようにクラウド環境へ移行していくのかのノウハウは、NTT東日本には不足している。この弱点を同社単独で解決するには時間がかかりすぎるため、クラウドインテグレーターとして急成長しているクラスメソッドと組むことにした。当初はクラスメソッドにNTT東日本が出資する話もあったようだが、大手通信キャリア各社との“等距離外交”を重視するクラスメソッド側の要望もあり、合弁方式でネクストモードを設立。5人の取締役のうち社長を含めて3人をNTT東日本側から出す方式に落ち着いた。
脱・昭和の働き方を“実演販売”
新会社は、Amazon Web Services(AWS)などのパブリッククラウドをはじめ、国内外の有力SaaS商材、プロジェクトや契約、労務などのオンライン業務ソフト、財務会計サービスといった、これまでクラスメソッドが得意としてきたクラウドサービスや、クラウドの利用に適したネットワークを主に販売していく。
NTT東日本の澁谷直樹副社長は「パブリッククラウドやオンラインツールが災害に強いのは2011年の東日本大震災で痛感した」と振り返る。当時はまだネットワーク機器を客先に設置し、ネットワークの構成図、工事情報は紙で管理することが多かった。震災発生時に福島エリアを担当していた澁谷副社長は、「クラウド環境であれば、顧客情報や設計関連の資料が津波に流されず、もっと迅速に復旧できたはず」と話す。今回、コロナ禍に直面し再びクラウドの災害への対応力を目の当たりし、新会社設立を通じた同分野でのビジネス拡大にゴーサインを出した。
クラスメソッドの主要顧客層は、クラウド利用のスキルがある層で、「そうでないユーザー企業には当社のサービスが届かない」(横田聡社長)課題を抱えていた。今後はネクストモードを通じて、NTT東日本の地域に密着した営業やサポートのリソースを活用。リーチ可能な客層を増やすともに、NTT西日本との連携も視野に入れる。
新会社の立ち上げ当初の社員数は30人ほどを予定している。都内に登記上のオフィスを開設するが、「30人を収容できる面積はない」(里見氏)といい、原則としてオフィスを持たず、クラウドやオンラインツールを駆使した働き方を実践。「自分たちの業務で使いこなし、“昭和の働き方”からの脱却を旗印に“実演販売”する」手法を取る。
NTTグループは24年、固定回線を全面的にIP網へ移行する予定。従来の電話代に代わる新しい収入を開拓する必要があり、クラスメソッドとの合弁事業もその一環。日本IBMとの折半出資会社だったSIerの日本情報通信(NI+C)が、今年1月にNTTグループの連結子会社となり、SIビジネスでNTT東西地域会社との連携を強化している。コロナ禍対応のテレワークを体験し、“問題意識”が高まった今が「新ビジネス立ち上げの好機」と捉え、グループ会社のNTTコミュニケーションズやNTTデータとは違う、地域に根ざした市場や顧客ニーズの開拓を行う。ネクストモードは向こう5年で年商160億円を目指す。