マネーフォワードグループのMF KESSAI(冨山直道社長)は、福岡銀行と、売掛金資金化(2者間ファクタリング)サービス「MF KESSAI アーリーペイメント」の実証実験を進めている。既存金融機関の従来の融資サービスでは対応が難しかった中小企業の資金調達ニーズにMF KESSAI アーリーペイメントが合致するかを検証する。サービス開発などを含む共同事業化を視野に入れており、冨山社長は「中小企業の運転資金需要は非常に膨大」と見て、地銀などとの協業により潜在的な巨大市場を積極的に開拓していく方針。近年のマネーフォワードグループのビジネスは、クラウド業務アプリケーションを起点としてFinTech領域のサービスを積極的に拡張しているが、その象徴的な取り組みとも言えそうだ。(齋藤秀平)
潜在的な巨大市場の開拓を目指す
MF KESSAIはこれまで、静岡銀行や広島銀行、三菱UFJファクターなどと協業し、主力サービスである企業間後払い決済サービス「MF KESSAI」の販路を拡大してきた。こうした協業では、既存金融機関をチャネルパートナーと位置付けてきたわけだが、今回の福岡銀行との実証実験では、中小企業の資金調達に資するファクタリングサービスの開発まで踏み込んだパートナーシップを見据えている。冨山社長は「サービスの提供に際しては、信頼感や安心感が非常に重要で、それを持っているのが金融機関だ」と、金融機関との連携の必要性を強調する。
MF KESSAI 冨山直道 社長
福岡銀行側も、新しい金融サービスの創出を構想する中で、ファクタリングサービスに注目していたという背景があった。ただし、同行ビジネス開発部の長尾秀友・主任調査役は「今までにやったことがない領域で、われわれ単独で始めるのは難しかった」と明かす。
福岡銀行 長尾秀友 主任調査役
長尾主任調査役は、MF KESSAI アーリーペイメントの手数料率(1~10%)が業界最安水準であるほか、与信モデルを高度化していることなどを評価。「使いやすさを重視するわれわれの考え方と、MF KESSAIアーリーペイメントの方向性が同じだった」と語る。一方、MF KESSAI事業企画担当の山本隆弘氏は「手数料率を低くできるのは、与信モデルを確立していることで未回収率を低く抑えらえているから。この点は弊社のサービスの大きな強みになっている」と説明する。
マネーフォワード クラウドのビッグデータ解析で
高度な与信モデルを確立
与信モデルには、マネーフォワードのクラウド業務アプリケーション「マネーフォワード クラウド」上に蓄積されたビッグデータの解析結果が活用されている。近年、業務アプリケーションベンダーが、プロダクトの提供だけにとどまらず、これまでに培ったノウハウを生かして金融サービス領域に直接進出する例も見られるようになっているが、マネーフォワードグループは特に積極的な取り組みが目立つ。
実証実験は7月17日から10月30日までの予定で、福岡銀行が自行の「提携サービス」として顧客にMF KESSAI アーリーペイメントを提供する。長尾主任調査役は「どこから資金を調達するかを考えた時に、銀行からというのが多くの企業の認識だろう。(サービス普及のためには)銀行を窓口として提供していくことが大切」と話す。
山本氏によると、MF KESSAI アーリーペイメントの活用事例では、売上拡大中で増加運転資金を必要としているものの融資枠に余裕がない中小企業が、より成長するための資金調達手段として利用するケースが多い。利用企業の年商規模は、1億円弱から数億円規模が中心だ。
実証実験でも、そうした企業を主なターゲットとしている。加えて、新型コロナウイルスの感染が拡大した影響で企業の意識が変化し、今まで同サービスを利用することが少なかった規模の企業からの問い合わせも増えているという。山本氏は「年商十数億円規模の企業からも声を掛けていただいている。今の時点で明確に運転資金のニーズがあるわけではないが、今後に備え、資金調達の選択肢を増やしたいと考えている企業は多い」と話す。
国内の中小企業が必要とする運転資金の総額は、MF KESSAIが中小企業庁の「中小企業実態基本調査(2016年度版)」を基に算出したところ、約44兆円だという。また、このうち売上高5億円未満の企業が必要とする運転資金は約14兆円。ただし、売上規模の小ささや業歴の浅さなどを理由に銀行からの借り入れが困難な場合もある。冨山社長は「中小企業の運転資金は、十分に行き届いているとはいえない状況と認識している」とし、「市場規模としては非常に大きいので、手数料の安さなどを武器にファクタリングサービスで需要に応え、市場の開拓を進めたい」と語る。
MF KESSAIと福岡銀行は、MF KESSAI アーリーペイメントの全国への展開を見据えて実証実験を進めている。福岡銀行の長尾主任調査役は「世の中に求められるサービスにできるように一緒に磨き上げていく。われわれの枠組みで全国に広げていくか、それとも各地の地銀ブランドで提供していくかは、実証実験をしながら検討する」と話す。一方、MF KESSAIの山本氏は「具体的な座組はまだ何も決まっていない」としつつも、今回のように金融機関が営業のフロントに立つスキームであれば、さまざまな地域で普及拡大を加速させられる可能性は高いとの見通しを示している。