富士フイルムビジネスイノベーション(富士フイルムBI)が本格始動した。旧社名の富士ゼロックスとして60年近く複写機ビジネスを手がけてきたが、米ゼロックスとの技術契約の終了に伴い4月1日付で社名を変更。アジア太平洋地域を主な営業地域としてきた同社は、今後は欧米市場を含む全世界の市場を販売ターゲットとする。営業体制の強化を目的に国内マーケティング会社の富士フイルムビジネスイノベーションジャパン(富士フイルムBIジャパン)を創設し、「富士フイルム」ブランドの複合機やプリンタ、関連サービスの販売に勢いをつける。コロナ禍から回復基調にあるプリント需要をどれだけ早くつかめるかが新体制の大きな課題となる。(安藤章司)
左から富士フイルムBIの玉井光一・代表取締役会長、
真茅久則・代表取締役社長CEO、富士フイルムBIジャパンの阪本雅司社長
ソフト・サービス商材にも注力
富士フイルムBIの新しい経営体制では、代表取締役社長CEOに真茅久則氏が専務から昇進。社長を務めていた玉井光一氏は代表取締役会長に就任した。新社長に就任した真茅氏は、富士フイルムで印刷業向けの製品・サービス事業を長く担当し、世界中の顧客に販売してきた。また、富士フイルムのM&A案件にも関わってきたことから、「今後、M&Aも含めて世界展開を進めていく富士フイルムBIにとってふさわしい人材だ」と、玉井会長は話す。
真茅社長は「世界市場での拡販、ITソリューション、サービスの拡充に力を入れていく」と、新体制の注力ポイントを話した。富士フイルムBIは、独自に開発してきた文書管理ソフト「DocuWorks」と電子契約、営業支援といった業務アプリを連携させたり、全国のセブン‐イレブンでのプリントサービスを個人のみならず企業向けにも展開したりと、関連ソフト・サービスの開発に力を入れてきた。今後はこうした分野を一段と発展させていく。
オフィスを主戦場とする複合機は、コロナ禍による出社の減少に伴う稼働率の低下が大きな痛手となった。富士フイルムBIは、コロナ禍のただ中にあった昨年8月に複合機・プリンタの9機種・22製品を投入したのに続き、4月1日には「富士フイルム」ブランドで初となる5機種・22製品を発表。「新機種の投入を継続することによって前年の販売台数を下回ることなく推移した」(玉井会長)と、逆風を押しのけて販売台数を伸ばしてきた。
逆風の中でも販売台数を増やす
営業面では、旧富士ゼロックスの国内営業部門と国内の全ての販売会社31社などを統合して富士フイルムBIジャパンが発足。トップに就いた阪本雅司社長は、「地域密着の営業を重視し、地域経済の発展に役立つ製品・サービスを迅速に届ける」と、今後の抱負を述べた。
阪本社長は旧富士ゼロックス時代、国内を含むアジア太平洋全体の営業全般を管掌する取締役専務として、国内外約2万人の営業部隊を率いてきた。玉井会長は「コロナ禍の逆風の中でも販売台数を伸ばすことができた複合機メーカーはおそらく当社だけ」だとして、営業を担ってきた阪本社長の手腕を高く評価している。
課題は、富士フイルムBIの真茅社長が指摘するように、欧米市場でのシェア獲得と、ソフト・サービスによる競争力の強化だ。旧富士ゼロックスの営業範囲はアジア太平洋地域であったため、欧米市場は富士フイルム本体の営業拠点か販売代理店、OEMなどに限られる。
真茅社長は「すでに(欧米市場の顧客やビジネスパートナーから)引き合いは来ている」と手応えを感じている一方で、「地域密着」をモットーとする営業スタイルを海外でも展開するために、富士フイルムBIジャパンに相当する直営のマーケティング会社の拡充も視野に入れる。M&Aについては、「成長を支えるITソリューションやサービスを軸に積極的に進めていく」と話す。
在宅勤務によってオフィスの複合機のプリント枚数が減少したが、21年度は国内と中国については回復に向かう可能性が高いと見る。すでに中国は今年に入って前年同期のプリント枚数を上回るなど明るい兆しもある。新しく手に入れる欧米市場やM&Aを交えて富士フイルムBIの成長に弾みをつける考え。
富士フイルムHDの古森会長が退任
写真フイルムから事業を大転換 ゼロックス買収不調に無念さ滲ませる
富士フイルムBIを傘下に収める富士フイルムホールディングスは、20年にわたって経営トップを務めた古森重隆・代表取締役会長CEOが6月の株主総会後に最高顧問に退く役員人事を内定した。後任の代表取締役会長に助野健児・代表取締役社長COO、代表取締役社長CEOには後藤禎一取締役が就任する予定。
右から富士フイルムHDの古森重隆・代表取締役会長CEO、
後藤禎一取締役、助野健児社長COO
退任に当たって古森会長CEOは、「コロナ禍にあっても主力事業の業績への影響を最小限に抑えられている」のを見て、後進に道を譲るタイミングだと判断した。かつて主力だったカメラ用フィルム事業を転換し、高機能素材や医療といった重点事業を成長軌道に乗せ、人材も育ってきたことに手応えを感じる一方、米ゼロックスの買収が不調に終わったことは「残念だ」とコメントした。