キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)は2025年までの5カ年の経営構想で、ITソリューション(ITS)事業を中核とした収益構造への転換を前面に打ち出した。基幹業務システム構築をはじめとするSI事業に加え、キヤノングループが強みとするドキュメント関連システムも「ITS事業の重要な構成要素」と位置づける。同社では主力で取り扱うインクジェットプリンタやカメラ、複合機、レーザープリンタのいずれも国内の市場規模は頭打ち、または縮小すると厳しく見ており、市場縮小の逆風の中でもITSを起点に価値を再定義し、競争力を高める方針だ。(安藤章司)
売上高の半分近くをITSで稼ぐ
キヤノンMJでは、25年12月期に連結売上高を6500億円、営業利益率を7.7%に高める目標を掲げる。昨年度(20年12月期)実績の5450億円に対して1050億円上乗せするとともに、営業利益率は昨年度の5.7%に対して2ポイントの改善を目指す。成長エンジンを担うのはITS事業で、昨年度の売上高は2094億円だが、25年までに全社売上高の46%を占める3000億円に拡大させる。この5年で1000億円近く伸ばす。
ITS事業の中核を担うのは、グループ会社のキヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)で、基幹業務システムの構築からIoTやAI、エッジ・コンピューティングの領域まで幅広いSIビジネスを手がける。キヤノングループが複合機やプリンタ関連ビジネスで培ってきたドキュメント領域も、ITS事業の成長を担うエンジンとして価値を再定義する。また、キヤノンのネットワークカメラ製品についても、画像認識AIや防犯システムなど「ITSと一体となってこそ真価を発揮する」(キヤノンMJの足立正親社長)として、今年度からITS事業セグメントにネットワークカメラ関連事業を組み入れた。
足立正親 社長
SIの中身についても、従来主力としてきた顧客ごとに個別にシステムを構築を請け負うスタイルだけでなく、月額や年額といったSaaS型の料金体系を増やして収益の安定化を図る。
SaaS化で販売先の裾野を広げる
具体的には、AI OCRの「CaptureBrain」、企業内検索「DiscoveryBrain」、キヤノン製ウェアラブルカメラとも連携可能な遠隔業務支援「VisualBrain」といったSaaS型で提供する「Brainシリーズ」を拡充していく。
ほかにも、パッケージソフトとして販売していた大学向け学習管理システム(LMS)「in Campusシリーズ」を5月下旬からSaaSとして提供する。パッケージ販売では個別SIやカスタマイズが伴うため、学生数5000人以上でIT投資の余力のある大規模な大学を主な販売ターゲットとせざるを得なかったが、SaaS化することで500~5000人未満の中規模大学や専門学校も販売ターゲットに入る。比較的規模の大きい製造業向けに開発してきた需要予測システム「FOREMAST」についても、SaaS化によって販売ターゲットの裾野を広げることを検討している。
一方で、SaaS商材はフロー型のSIビジネスに比べて安定的した成長にはつながりやすいものの、短期の売り上げボリュームは小さくなる。SaaSへのシフトを進めるキヤノンMJも、昨年度のITS事業の売上高は前年度比8%減となった。同社が全国に持つ中堅・中小の複合機ユーザーにも幅広くITSのSaaSを使ってもらうことで規模の拡大を追求する。「ドキュメントや情報セキュリティ、業種アプリの魅力的な提案を起点に、複合機やカメラのユーザーにもなってもらう」(足立社長)として、“ITSファースト”のアップセル提案においてもSaaSをドアノックツール的に活用していく方針だ。
キヤノンMJは他の複合機メーカーにはない強力なITS事業を持っていることには違いなく、この強みをどこまで発揮できるかが成長のカギを握る。