クラウドインテグレーターのサーバーワークスが、「Google Cloud」のクラウドインテグレーション事業を手掛ける子会社としてG-genを設立した。サーバーワークスはクラウド黎明期からアマゾン ウェブ サービス(AWS)の日本市場での成長を支えてきた有力パートナーであり、「AWS専業」の姿勢を明確にして成長を続けてきた。しかし、リモートワークを前提とした新しい働き方やビジネスモデルの再構築を迫られる企業が増え、従来以上にクラウドの活用が急拡大するにつれ、顧客のニーズは多様化している。AWSだけでは解決できない課題も増えてきたことから、マルチクラウドに本格的に舵を切る。(本多和幸)
G-genはGoogle Cloudのリセール(請求代行サービス)、インテグレーション、運用代行や監視・障害対応のマネージドサービスなどを手がける。特徴的なのは、発足時からGoogle Cloudの最上位パートナーであるプレミアパートナーとしてビジネスを開始することだ。
このスキームが可能になったのは、サーバーワークスが韓国のクラウドMSPであるべスピン・グローバル(べスピン)と協業関係を結び、持株比率50%ずつの合弁でG-genを設立した経緯があるからだ。べスピンは韓国や中国、東南アジアなどを中心に事業を展開しており、Google Cloudの東アジア地域における有力パートナーの一社。プレミアパートナー認定を取得している。G-genはべスピンのリセールチャネルを利用することで、Google Cloudを5%割引で提供する。これは国内最安値レベルだという。
サーバーワークスの大石良社長は「単独では最初から5%引きという価格では出せなかった」と話す。G-genの案件ではべスピンのエンジニアが稼働する体制も整えるなど、協業のスキームをうまく構築することでプレミアパートナーとしての要件を満たした形だ。
サーバーワークス 大石 良 社長
AWSだけでは顧客の課題を解決できないケースが増えた
AWS専業を掲げてきたサーバーワークスがG-genの設立に踏み切った理由について大石社長は「(既存の)お客様の課題をAWSだけで解決できないケースが増えてきた」と説明する。特に大量のデータをリアルタイムに解析するといったユースケースでは、Google CloudのDWHである「BigQuery」のニーズが非常に大きいという。
また、「ゼロトラスト」の実現を多くの企業が検討し始めたことも、Google Cloud事業への参入を後押しした。新型コロナ禍でリモートワークが急速に進んだことで、「『Google Workspace』のようなビジネスアプリケーションスイートとゼロトラストセキュリティソリューションの『BeyondCorp』、そして『Chromebook』などを組み合わせてセキュアで利便性の高いビジネス環境を整備したいという需要も高まっている」と見る。
一方で大石社長は「サーバーワークスグループが手掛けるIaaSの中核がAWSであることはこれまでと変わらない」とも強調する。「マルチクラウドというと一般的にはさまざまなクラウドベンダーのIaaSが乱立しているイメージだが、実際はインフラを複数混在させる非効率な使い方ではなく、PaaS、SaaSとレイヤーが上がるに従って、さまざまなクラウドベンダーのサービスを組み合わせて使うニーズが増えるイメージだ」。Google CloudのPaaSには、マルチクラウド対応を進めている製品も多い。インフラはAWSのIaaSを採用し、PaaS以上のレイヤーでGoogle Cloudのサービスを組み合わせることが現実解になるケースも増えているというのが同社の見解だ。
G-genはサーバーワークスと連携し、「顧客の目的とシナリオに合わせて、AWSとGoogle Cloudを俯瞰した最適なクラウド環境を実現する」としている。
コスト優先の場合はIaaSもGoogle Cloud
ただし、AWSとGoogle Cloudを組み合わせることは顧客にとって目的ではない。「最適なクラウド環境」実現のために、G-genはニーズをどのように切り分けてどんな提案をしていくのだろうか。
例えばレガシーなアプリケーションをクラウドにリフト&シフトする場合、「IaaSのファーストチョイスは移行のためのツールも充実しているAWSになる」という。しかし、「シフトの段階でクラウドらしいモダナイゼーションを進めようとすると、AWSだけでは機能が足りないとか、性能が足りないといった声が出てくることは多い。シフトを進めやすくするためにAWSとGCPを組み合わせて使う案件は多数発生すると見ている」と大石社長は話す。
こうした案件はAWS専業のサーバーワークスとGoogle Cloud専業のG-genが連携する典型的なパターンだ。G-genの羽柴孝代表取締役は「サーバーワークスは大企業の顧客が多く、AWS専業ベンダーとして市場の信頼を得ている。そこにG-genのサービスを組み合わせることで、グループとしての強みを最大化できる」と強調する。
一方、顧客がコストを優先する場合は、IaaSもGoogle Cloudが有力な選択肢になり、べスピンとの連携が生きる。羽柴代表取締役は「Google CloudはSAP製品の基盤としてもかなり実績が出てきたが、パフォーマンス比でコストをAWSよりも抑えられる点が評価された事例は多い。べスピンとの協業により5%割引で提供できるメリットがここで効く」と話す。
G-genはサーバーワークス、べスピンとのシナジーを差別化につなげ、従来のサーバーワークスのビジネスよりも幅広い顧客層にアプローチしていく方針だ。
また、べスピンは「Microsoft Azure」や「Alibaba Cloud」のパートナーでもある。幅広いクラウド案件を手掛けてきた実績と技術力を生かし、独自のクラウド運用自動化ツールなども開発している。「日本のユーザーにどれくらい受け入れられるかは精査する必要があるが、製品のクオリティはかなり高く、ポテンシャルは十分。日本向けのローカライズも検討している」(羽柴代表取締役)としている。べスピンとの協業を深め、サーバーワークスグループのマルチクラウド対応のさらなる強化に生かすことも視野に入れる。