2021年4月1日に施行された改正高年齢者雇用安定法では、事業主が具体的に、(1)70歳までの定年引き上げ、(2)定年制の廃止、(3)70歳までの継続雇用制度の導入、(4)70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入、(5)70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入――の措置を講じることに努めることとされ、どの選択肢を選ぶかは労使間で協議し、それぞれの高年齢者の希望を尊重するよう定められている。この措置は現状、努力義務だが、過去の同様の措置(60歳定年の努力義務化から義務化など)の経緯や、少子高齢化の進展状況からすれば、早晩義務化されるといえる。
企業に対して、高齢者が働ける環境を整えるべきだという社会の要請は強まっているが、企業を取り巻く環境も以前と異なり、高度成長期のような経済成長が望めず、多様化も進んでいる。改正高年齢者雇用安定法における業務委託契約による働き方は、従来にはみられない働き方とし、近年の新型コロナウイルスの蔓延も一要因として加わり、副業の拡大と相まって今後拡大していくものと考えられる。
都内企業における兼業・副業に関する実態調査によれば、自社の従業員による兼業・副業について半数近くが兼業・副業の制度内容について関心があると回答し、3割を超える企業が従業員の兼業・副業を認め、兼業・副業を認めている企業のうち33.0%の企業で効果が「あった」「ややあった」と回答としている。また、外部人材活用の効果として、活用実績のある企業では83.7%の企業で効果が「あった」「ややあった」と回答している。
兼業・副業の制度・内容における関心の有無
(出典:経済産業省)
従業員の兼業・副業を認めている状況
(出典:経済産業省)
従業員の兼業・副業における効果の有無
(出典:経済産業省)
業務委託契約による働き方として「個人事業主」「法人設立をして起業する」という二つの方法があるが、定年後の働き方については、「法人設立手続きに時間と費用を要する」「小規模な法人であれば、個人事業主と信用度は変わらない」「年間利益が多くなければ節税メリットはあまりない」という点で、個人事業主として起業することが望ましい。
個人事業主については法人設立についてのメリットが強調されることが一般的だが、定年後の働き方として今までの人生経験や人脈から信用力が十分にあり、所得税と法人税の最高税率の違いから法人設立に節税効果があるといわれている(所得税は最高税率が45%、法人税は利益が400万円以下の部分で中小企業実効税率として約21.4%)。ただ、現役時代のようにフルタイムで働くことがあまり考えられないこと、一定の金融資産があることなどから同程度の利益であれば(約500万円程度の利益)、法人化による節税効果はあまりない。
また、帳簿の整理(会計)や税金についての知識は個人事業主であっても、小規模な法人と同様な知識が必要になる(白色申告者の記帳義務や2023年10月からのインボイス制度の開始など)。
ITコーディネータ協会には全国に勉強会やビジネス交流を目的としたさまざまな地域密着のコミュニティなど、全国で約100を超える組織がある。独立系やバックオフィス業務に精通したITCも多く活躍している。会計税務の知識の習得やビジネス交流など、コミュニティをうまく活用して、定年後の働き方を考えてみてはいかがだろうか。
■執筆者プロフィール

菅沼俊広(スガヌマ トシヒロ)
菅沼俊広税理士事務所 税理士 ITコーディネータ
青山学院大学経済学部経済学科博士前期課程修了。税理士法人あすなろを設立したほか、東京税理士会でさまざまな相談員を経験。直近では、日本税理士会連合会コロナ対策相談室委員を務める。大学院で講師として講義したほか、ITコーディネータインストラクターとしてセミナーも数多く実施。