前回はサッカー業界における新サービス「PLAYMAKER」の概要を紹介したが、今回はサービス立ち上げの過程で検討した理念と事業ドメインの整合性についてみていきたい。
PLAYMAKERが誕生したきっかけは、創業者の三橋亮太氏が自らのプロサッカー選手としての経験から、選手とクラブのコミュニケーションを手助けしたいと発想したことである。選手とクラブにおけるコミュニケーションの支援は業界の課題解決のためには必要なことであるが、三橋氏の理念はコミュニケーションの支援にとどまらない。三橋氏の当初の想いは、選手が長くプレーできる環境を提供したいというところにあった。そのためには、普段の練習や体づくりなど、さまざまな検討要素がある。
さらに、プロ選手が良い環境でプレーするためにはセカンドキャリアの充実や、選手だけではなくクラブやサポーターなども影響する。それは、サッカーだけではなくスポーツ全般にいえることである。三橋氏の理念はスポーツ全体にまで広がっていたが、理念を語りすぎると当時のPLAYMAKERのサービス内容がぼやけてしまうという悩みがあった。そこで、三橋氏の想いとPLAYMAKERの事業ドメインを整理し、整合性を確認した。
理念と事業ドメインの関連
事業は選択と集中が必要であるため、当時は「良いチームに所属する」ことを目的とした選手とチームのコミュニケーションの支援に集中させたが、当時の理念は「最も叶えたい夢を、最も応援できる世界に」ということだった。ちょうど理念を検討していた2018年に国から出された「未来投資戦略2018」にも「スポーツ文化を創る」という点が掲げられており、国の方向性とも合致していた。試行錯誤しながら理念と事業ドメインの関連を作成し、選択した事業ドメインと理念のひも付けを行った。これにより、理念と実際に行っていることの整合性を確信できたほか、壮大な理念を語る場合と現実的な事業を語ることが矛盾なくできるようになった。なお、現在のPLAYMAKERの理念は「挑戦へのリミットを外す」であり、事業の進化とともに理念も進化しているが根本にあるものは当時と変わりはない。
多くの新規事業にとって、理念と事業の整合性をとることは重要だ。特に、夢があるスポーツなどの分野で事業を始める際は壮大な理念が先行するパターンが多いといえるが、事業計画は現実的に選択と集中を行う必要がある。理念がなければ事業が上手くいかないことは自明であるが、理念と実際に行っていることのひも付きができていない場合、矛盾が出てくるといえるだろう。
なお、そのような状況に陥っている創業間もない経営者に何度も会ったことがあるが、「将来」のビジョンと「今」の事業ドメインという時間軸の違いを上手くひも付けることができれば成功する可能性が高い。新規事業を始める際は、理念は大風呂敷を広げ、現実的な事業計画を立てながら、整合性をひも付けることが重要となる。
■執筆者プロフィール

荒井雄介(アライ ユウスケ)
シソーラス 取締役COO ITコーディネータ
大学卒業後、NTTデータ、アクセンチュア、TISを経て現職。システム監査技術者、プロジェクトマネージャ、システムアーキテクトなどのIT系資格も保有。MBAホルダーのITプロフェッショナルとして活動中。長野県ITコーディネータ協議会の理事も務める。政治学修士(同志社大学)、経営学修士(グロービス経営大学院)。