クラウドストライクの国内事業が好調だ。セキュリティプラットフォーム「FALCON PLATFORM」上でEDR(Endpoint Detection and Response)など25のセキュリティモジュールを提供。容易にセキュリティを強化できる点が支持され顧客数、パートナーともに年々、増加している。2月にジャパン・カントリー・マネージャーに就任した尾羽沢功氏に、直近のビジネス動向や戦略を聞いた。
(取材/岩田晃久、日高彰 文/岩田晃久)
ポテンシャルが高い会社
ジャパン・カントリー・マネージャー就任の経緯を教えてください。
尾羽沢 お客様にとってセキュリティはもはやインフラの一つです。前職でシトリックス・システムズ・ジャパンの代表を務めていましたが、年々、お客様のセキュリティニーズが拡大しているのは実感していました。そういった中で、クラウドストライクから声が掛かり、エンドポイントセキュリティを中心に幅広いセキュリティ対策を提供できる点を魅力に感じ入社しました。
尾羽沢 功 ジャパン・カントリー・マネージャー
入社後に感じたのは高いポテンシャルを持つ企業だということです。社員と話していても「製品力ではどこにも負けない」と言います。メーカーとして製品力に自信を持つことは最も重要なことです。お客様やパートナーに提案する際、製品説明をする前に「製品が良いことは分かっているから説明はいらないよ」と言っていただくこともあります。そういった面から今後、やり方次第ではより会社を大きく成長させられると思っています。
業績が好調に推移していますね。
尾羽沢 グローバルの2022年度(22年1月期)のARR(年間経常収益)は前年同期比65%増の17億3100万ドル、顧客数も同65%増の1万6325社となりました。直近の23年度第1四半期では1万8000社まで伸びています。日本法人は具体的な数字は公開していませんが、22年度は顧客数が同71%増、エンドポイント/契約センサー数が同56%増、チャネルパートナー数が同105%増と好調に推移しています。本年度も同程度の成長を見込んでいます。
日本法人の従業員数も年々増加しており、現在では約100人となりました。さらに組織を強化するために本年度も積極的に採用を進め組織を強化します。
クロスセルに適した商材
製品の魅力や強みを教えてください。
尾羽沢 当社は脅威インテリジェンスからビジネスがスタートしているため、そこが強みの一つです。日本にも脅威インテリジェンス部を設けていますが、グローバル全体では数百人規模の脅威インテリジェンスチームとなっています。そのチームが世界各国のあらゆる脅威をモニタリングすることで、最新の脅威にいち早く対応できます。こういった組織はすぐにつくれるものではないので、他社との差別化にもなります。加えて、製品はすべてクラウドネイティブなため、リアルタイムで最新の脅威情報による防御をお客様に提供することができます。
そして、大きな特徴となるのは機能をすべてFALCON PLATFORM上で提供する点です。プラットフォーム上ではいくつかの製品群で分かれており、例えば、エンドポイントセキュリティの群では、EDRや次世代アンチウイルス(NGAV)のモジュール、クラウドセキュリティの群ではクラウドの可視化やCSPM(Cloud Security Posture Management)のモジュールがあります。現在は、25のモジュールをプラットフォーム上で提供しており、さまざまなセキュリティニーズに対応できます。
お客様が利用する際は、エージェントをインストールし、必要なモジュールを選択するだけです。例えば、最初はEDRや次世代アンチウイルスといったモジュールでスタートし、脅威インテリジェンスやログ管理が必要になった際には、新たに目的に沿ったモジュールを選択するだけで手軽にセキュリティの強化が図れます。パートナーにとっても、既にプラットフォーム上にあるモジュールを提案するだけなので、クロスセルがしやすい商材といえます。
当社の場合、EDRのイメージが強いのですが、EDRもモジュールの一つに過ぎません。一つのプラットフォームで幅広いセキュリティ領域をカバーできるのが他社との違いといえます。
現在、米国の本社で新たなモジュールの開発を進めており、今後も提供できる機能は増えていきます。
セキュリティ対策ではゼロトラストの考えに基づいた対策へのニーズが高まっています。
尾羽沢 当社もゼロトラストに基づいた提案をしています。具体的には、EDRやNGAVに追加で脆弱性管理やID保護といった機能をすべてまとめて導入することでゼロトラスト環境をつくるというものです。その結果、脆弱性管理やID保護のモジュールを利用するお客様は増えています。ゼロトラストの考え方もベンダーにより異なりますが、当社ではこのようなアプローチがゼロトラストをつくる上で重要だと考えています。
ディストリビューターを開拓
パートナー戦略ではどういった点を強化しますか。
尾羽沢 現在のディストリビューターはマクニカの1社のみなので、新たなディストリビューターを開拓し、その先のリセラーを増やしたいです。当社の製品は大手企業を中心に利用されていますが、地方の企業、自治体での導入実績は少なく、(地方での)製品知名度も低いと思っています。製品をより多くの企業に利用してもらうためにも、地方に強いパートナーと協業することは不可欠です。大きな目標ですが、日本全体を当社の製品で守っていると言われるようになりたいですね。
自社でMDR(Managed Detection and Response)サービスを提供していますが、既存のパートナーであるMSSP(マネージドサービス事業社)との関係に影響はないのでしょうか。
尾羽沢 日頃からMSSPのパートナーとは密に連携することで、ケースバイケースで対応できる体制を構築しています。彼らが当社の製品だけを販売して運用面は自分たちで行うことが多いですし、お客様が望めば当社のMDRサービスを彼らが販売することもあるなど関係は良好です。国内のセキュリティ市場はパートナーの力が重要であり、海外とは違います。本社から見れば自社のMDRをもっと日本で販売してほしいかもしれませんが、無理に既存のMSSPパートナーの顧客を奪うつもりはなく、あくまで協業を強化していくのが重要だと考えています。