モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)では、小型、バッテリ駆動、そしてモジュール化され容易に取り扱えるデバイスを“ナノコン”と定義し、2018年に「ナノコン応用推進WG」を立ち上げ、普及促進に取り組むとともに企業だけではなく学生など幅広い分野でのIoT技術者育成に向けた活動も行っている(ナノコンは、MCPCがライセンスしている登録商標)。
19年、ナノコンの代表例である「Leafony」を用いて社会課題を解決するためのアイデアを実現する取り組みを題材としたハッカソンを開催した。技術者だけでなく、美大や芸大生、文系の大学生、個人でデザイナー業を営む主婦も参加し、技術や解決策を持つ人と、社会課題や生活を豊かにするアイデアを持つ人のマッチングの場にもなった。
20年からはハッカソンを“ナノコン応用コンテスト”に変えて、年1回のペースで実施している。コンテストは、企業、大学、職業能力開発短期大学、専門学校、個人が参加し、人々の安心・安全に役立つシステムや、快適な生活に役立つシステムなどの応募があった。
ハッカソンの様子
例えば、東海大学地盤研究室チームは、Leafony Basicキットに標準搭載された加速度センサーを利用して、0.2°程度の精度で土地の傾斜角を計測するデバイスを開発し、定期的に計測した傾斜角を遠隔地から常時監視できるシステムを構築した。他のセンサーと組み合わせることで、災害の余地、インフラ老朽化の監視にも応用できそうだ。
また、日本電子専門学校は、ペットの健康管理に着目し、Leafony Basicキットに標準搭載された温度計、加速度センサーを利用して、ペットの体温と活動量データを取得できる首輪を開発し、飼い主のスマホで、ペットの異変にいち早く気づけるシステムを構築した。獣医から「日々のデータはペットの治療にも役立つ」という声が寄せられた。
22年は3回目となるナノコン応用コンテストを6月1日から募集を開始した。また、年に1~2回のペースでナノコン勉強会を開催し、これまで東京大学の桜井名誉教授、奈良先端科学技術大学の荒川准教授(現九州大学教授)、東京大学の森学術支援専門職員などの講演を行い、ナノコンの普及促進を行ってきた。3月のナノコン勉強会では、大学生起業家のNexstar・山本愛優美氏、図研の長谷川清久氏による「“ときめき”で光るイヤリング『e-lamp.』」の講演を行うとともに、“活用事例から学ぶナノコン・Leafony”をテーマとしたパネルディスカッションをWeb開催した。
e-lamp.は、脈拍などのバイタルサインをセンシングし、それを相手に伝えることでコミュニケーションを豊かにしようとする新たな取り組みである。イヤリング型の魅せるデバイスのため小型であることは欠かせないが、PoCフェーズでは小型の専用基板を起こすのが難しい。新たな価値を生み出す過程においては、小型・低消費・カスタマイズ性に優れたナノコン・Leafonyは非常に有効といえる。
パネルディスカッションでは、ナノコン・Leafonyの価値として、Wi-Fi、BluetoothだけでなくLoRa、LTE-Mまで通信をサポートしている点や、開発環境の完備、ドキュメント/利用事例の豊富な点などが評価された。また、アイデアを短期間で実現できるため、教育現場などの人材育成への活用も有効という議論もされた。22年7月29日の勉強会では、「IoTにおけるLTE-Mの価値」と題して、ソラコム・松下享平氏による” 最新IoT事例と、LTE-Mの相性を紐解く”とMCPCより最新LTE-Mリーフの紹介を行った。
ナノコンをより多く知ってもらうためにLeafonyの解説と、Leafonyを含むナノコンの活用事例やをナノコン応用コンテストの受賞作品をまとめたハンドブックを発行している。
ナノコン応用推進WGは、ナノコン活用事例が一人ひとりの社会課題を解決する参考となり、Society5.0の社会の実現の一助になることを期待し、今後もナノコン応用コンテストにより活用事例を増やし、ナノコンハンドブック・勉強会などを通じて、その告知活動を行っていく。
■執筆者プロフィール

濱田 圭(ハマダ キヨシ)
MCPC ナノコン応用推進WG副主査
姫路工業大学電子工学科を卒業後、FA機器開発、PCカード開発を経て富士通に入社。PC内蔵通信機能(Modem,LAN,BT,WiFi,PHS,WiMAX,3Gなど)、リモートデータ消去アーキテクチャ、CLEARSURE 3G/LTEを開発、セキュリティソリューション企画に従事。
現在、富士通クライアントコンピューティングでソリューションの企画・開発を担当。