IoTハカリソリューション「焼くッチャ君」は、福岡県北九州市の「北九州でIoT」をテーマにしたビジネスコンテストから生まれ、その後、紆余曲折を経て北九州市を本拠地とするパン製造業者であるクラウン製パンへの導入を実現した。2017~18年の「第1回コンテスト」に参加し、実証実験を行っていた際はコミュニティだったが、その後、「ビビンコ」を設立するまでに至った。
できたばかりのビビンコとして、「第2回コンテスト(18~19年)」に応募したアイデアは再び採択。TOTOのシステムキッチンの一部である調味料ストッカーにIoTハカリを取り付け、調味料の残量が減ったら自動発注するというアイデアで、「愛の目盛(メモリー)」と名付けられた。
第2回コンテストにおけるデモデイの様子
(右にあるのが調味料ストッカー)
採択後に行われるメンターたちとの定期的な打ち合わせの中で、「自動発注機能だけで市場に訴求できるのか」という疑問が出てきて、別のニーズも検討することになった。後追いでニーズを探すのは正攻法ではないかもしれない。IoTをテーマにしたコンテストという性質だからだろうか。ただ、ある程度作るハードウェアが見えているために、具体的な議論ができるというメリットもあった。メンター以外にもTOTOの担当者も交えて検討した結果、新たなアイデアが生まれた。
調味料の減少量データを、ヘルスケアに使えるかもしれない。特に塩と醤油に注目した。1日3食の全てを家庭で摂るわけではないが、塩と醤油の在庫量減少データを長期的に取得すれば何らかの傾向がつかめるかもしれない。少なくともデータを可視化すれば減塩しようという意欲につながると考えたのである。
早速、北九州市役所の担当者に協力してもらい、地元の栄養系の大学から協力を得ることができた。この時は、ハードウェアデザインや製造についても、地元の大学や高専からも協力を得た。焼くッチャ君ではハードウェア開発にずいぶん苦労したのだが、2回目となると、助力を得ることに慣れたのかもしれない。そもそも北九州市がこのようなコンテストを開催できるのも、こうした支援できるリソースがあるからだろうし、得られる支援は積極的に活用した方が良い。
できあがった「愛の目盛」のデザイン
完成した愛の目盛は、残念ながらイベントで披露した後にお蔵入りとなった。さまざまな理由があるが、焼くッチャ君以外に時間を割けなかったというのも理由の一つだ。しかし、この時の、さまざまな助力を得てアイデアを生み出したというのは、ものづくりをしていく過程から学びが多かった。
IoTはセンサー、ハードウェア、通信、クラウド、ソフトウェアと、さまざまな技術が絡み合ってできている。それをビジネスに乗せようとすると、絡む要素はさらに増える。こうしたことを1社で全て賄うというのは、よほどの大企業でなければ難しい。多くの場合、さまざまな企業、大学や高専などの教育・研究機関、さらに行政も含めたコラボレーションが必要になってくる。コンテストによって、そのような場を得ることができた。
これらのコンテストは、「Maker's Project」と名称を変更して毎年行われている。今年度のエントリーは既に終了しているが、来年度以降も開催されるなら、全国からの応募を受け付けている。こうしたコンテストはIoTで新たなビジネスを生み出すという方向性だが、もっと身近なIoT導入であれば、地域ごとに行われている地方版IoT推進ラボといった取り組みもある。まずは仲間づくり、そしてコラボレーション。周囲を巻き込む力もIoT導入には必要だ。
■執筆者プロフィール

井上研一(イノウエ ケンイチ)
ビビンコ 代表取締役 ITコーディネータ
プログラマ・SEとして20年以上の実務経験。AI関連では、コールセンターへのIBM Watsonの導入や、画像認識システムの開発に携わる。IoTハカリを用いたビジネスアイデアにより、「北九州でIoT」に2年連続採択。そのメンバーで、ビビンコを2018年に創業。