ここまでIoTハカリソリューション「焼くッチャ君」の概要と、成り立ちについて説明したが、今回は現在と未来について述べる。
初めて本格的な導入に至ったのは、ビジネスコンテストの時からお世話になっているクラウン製パンの福岡県北九州市小倉北区にある店舗だ。当時、当社は同じ区内に本社を置いて設立していたが、メンバーの全員は首都圏にいた。筆者は東京都中野区から神奈川県横浜市に引っ越していたのだが、いずれにせよ設置作業や導入状況の確認は出張でまかなっていた。
IoTは遠隔での監視などを可能にする技術だが、IoT機器の設置自体は現地訪問しないとできない。この辺は、クラウド上のサーバーにリリースすれば終わりといったようなITシステムの導入とは異なる。
最初の導入から1年ほどして、北九州市にUターンすることを決めた。焼くッチャ君の導入についてはUターンが功を奏した。IoTソリューションは現場の近くにいるということが重要だ。
活動の拠点を移した後、焼くッチャ君は2店舗目の導入が決まった。現在、当社が本社を置く北九州市八幡西区の店舗だ。ここは機器に何か異常があれば自転車で行ける程度の距離にある。実際に、機器の動作確認や故障したIoTハカリの交換を行ったこともある。
2店舗目での設置の様子
IoTソリューションを提供する企業は、“街の電気屋さん”になる気概が必要といえる。テレビが壊れたといえば見に行く、蛍光灯が切れたなら交換する。そんな街の電気屋さんと同じことが、IoTでは必要だ。
IoTハカリを店舗に設置するには、店舗のWi-Fi環境を確認し、スマートフォンを使って接続情報を設定する必要がある。もちろん、クラウドにきちんとデータが送信されているかも確認しなければならない。設置場所が傾いていたり、何か障害物があったりするときちんと重量が計測できないので、それも注意が必要だ。もちろん、電源も安定して供給されなければならない。
店舗ごとに2~3台のIoTハカリを設置しているので、その全てについて同様の作業を行う。最初の設置だけでなく、安定した運用のためには、データがきちんとクラウドに送られていることを確認し、異常があれば店舗訪問して設置状況の確認を行うといったことも必要だ。やはり、こうした作業を行うのは、現代版の街の電気屋さんだ。
IoTハカリで取得したデータは、店舗内およびクラウン製パン本社に設置してあるタブレット端末でリアルタイムに表示するようになっている。現在の在庫量だけでなく、当日の在庫変動グラフも表示しているし、過去日付のデータも簡単に閲覧できる。こうしたデータを参照して、1日の生産計画を立てたり、臨機応変の対応をしたりすることが可能だ。ただ、あくまで店舗のスタッフが自発的に活用することが前提となっているのは否めない。
ビジネスコンテストで掲げられたテーマ「焼きたてのパンを食べてもらうには」や、その後の検討の中から新たな目的となった「廃棄ロス削減と販売機会の逸失をなくすこととの両立」などを実現するには、現在の焼くッチャ君のままでは充分とはいえない。だが、ようやく1年分と少しのデータも蓄積されてきたところである。データの可視化と蓄積というフェーズから、蓄積したデータを活用するフェーズに移らねばならない。焼くッチャ君は、まだ道半ばなのだ。
■執筆者プロフィール

井上研一(イノウエ ケンイチ)
ビビンコ 代表取締役 ITコーディネータ
プログラマ・SEとして20年以上の実務経験。AI関連では、コールセンターへのIBM Watsonの導入や、画像認識システムの開発に携わる。IoTハカリを用いたビジネスアイデアにより、「北九州でIoT」に2年連続採択。そのメンバーで、ビビンコを2018年に創業。