前回、「北九州でIoT」というビジネスコンテストに、コミュニティで応募したIoTハカリを活用してパン店での商品在庫をリアルタイムで取得し、可視化するというアイディアが採択されたことを紹介した。今回は、採択されたアイディアをいかに具体化していくかについて紹介する。
あとに「焼くッチャ君」という名前の付く、このアイディアが採択された2017年当時、ハカリで計測した重さをリアルタイムにクラウドに送信できる、IoTハカリはほぼ存在しなかった。厳密には存在したのだが、非常に高額でコスト的に合わなかった。そこで、精度が低くなったとしても安価なIoTハカリを作るというのが焼くッチャ君のテーマになった。ビジネスコンテストで採択されたことによって、100万円まで経費が使える一方、約半年後にデモデイでの成果披露が迫られることになった。提案したアイディアを形にして、店舗で実証実験を行うところまで進めなければならない。
IoTの勉強会によって、IoTハカリの仕組みが分かり、簡単なものであれば実際に作ることもできた。重さを計測するセンサーはいくつかの種類があるが、ロードセルを使うことにした。重みを負荷としてかけることによって生じる歪みを電気信号として取得し、そこから重さを得るという原理のセンサーだ。秋葉原で購入できるロードセルと、安価なボードコンピューターであるArduinoを組み合わせることによってIoTハカリの原形が完成した。
最初の実証実験で使用したIoTハカリ
このような実験的なIoTハードウェアは、17年当時はもちろん、今でもよく作られるものだろう。IoTの原理を知るためにはうってつけの題材で有用だ。ただ、そうした習作と実際の店舗に置くモノはイコールではないことも事実である。実証実験を行う北九州市小倉にあるクラウン製パンの店舗で、実際にどの程度のサイズの什器にパンを載せているのか、現地で計測した。全ての商品が同じ什器を使用しているわけではないので、どの商品をターゲットにするかを決めなければならない。さらに、汎用的に使えるIoTハカリとするためには、どの程度のサイズであればいいのかも検討が必要だ。
電源をどうするかも問題だった。習作レベルであればUSB給電で問題ない。もっといえば、開発中のArduinoはPCとUSBケーブルで接続しているので、電源もそれで賄える。しかし、そうした状態で実際の店舗に置くわけにはいかない。理想は電池だが、数分おきにWi-Fiでデータ送信となると、電池が1日ももたない。習作で用いるブレッドボードは簡単にピンが抜けて配線が壊れてしまうので、きちんとハンダ付けしないといけない。基盤を入れるケースも必要だ。
焼くッチャ君メンバーの多くはソフトウェアの知識があってもハードウェアについての知識がなかったが、メンバーの中に製造業を営む日本テクナート社長がいた。初代のIoTハカリは同社に開発を依頼したことで、デモデイまでの実証実験を乗り切ることができたのである。
ビジネスコンテスト終了後は、焼くッチャ君メンバーで会社を作ることにした。それが18年9月、北九州市に設立したビビンコだ。18年末には、焼くッチャ君の本命としていた店舗に設置することになった。設置作業を行ったのだが、ここで問題が発生した。「このIoTハカリでは店舗運営ができない」ということになってしまったのだ。
■執筆者プロフィール

井上研一(イノウエ ケンイチ)
ビビンコ 代表取締役 ITコーディネータ
プログラマ・SEとして20年以上の実務経験。AI関連では、コールセンターへのIBM Watsonの導入や、画像認識システムの開発に携わる。IoTハカリを用いたビジネスアイデアにより、「北九州でIoT」に2年連続採択。そのメンバーで、ビビンコを2018年に創業。