NRIデジタルは、ランダムに地域へ送客する仕組み「どこかにシリーズ」の第2弾として、JR東日本と協業した「どこかにビューーン!」を12月から始めた。JR東日本のポイントを使って、同社の新幹線停車駅を往復でき、乗客は幸運な偶然を手にする「セレンディピティ」を体験できるのがコンセプト。同事業はNRIデジタルと野村総合研究所(NRI)、JR東日本の共同事業で、収益は各社で分配する。ビジネス発案からシステム構築、販促活動まで一気通貫で協業しているのが特徴だ。
NRIのDX子会社であるNRIデジタルは、2016年の発足当時から顧客と協業して新しいビジネスを立ち上げる共創モデルを重視してきた。設立年の12月には、「どこかにシリーズ」の第1弾として、日本航空(JAL)とNRIグループの共同事業「どこかにマイル」をスタート。貯めたマイルを使って国内のJAL就航先を往復できるもので、今回のJR東日本との「どこかにビューーン!」は、「どこかにマイル」で得たノウハウを応用するかたちでシリーズ化した。
新井 朗 プロデューサー
今年で6年目となるJALとの「どこかにマイル」は、コロナ禍の厳しい移動制限が大幅に緩和された追い風もあって「過去最高の売り上げで推移している」(NRIデジタルの新井朗・プロデューサー)と手応えを感じている。「どこかにビューーン!」もコロナ禍の冷え込んだ旅行需要の掘り起こしに役立つことが期待されている。
ユーザー企業の新規事業の立ち上げをNRIのようなSIerが支援する場合、「従来の発注者、受注者の関係のままではユーザー企業側のリスクが大きくなりすぎる」(新井プロデューサー)課題があった。そこで、NRIデジタルは、ユーザー企業との共創モデルの一つのパターンとして、ビジネスモデルの発案から最終ユーザーへの売り込みまで歩調を合わせる共同事業方式を採用。利益とリスクを両者が共有し、本来なら経営コンサルティング会社や広告代理店が担うような領域をNRIデジタルとユーザー企業がともに担うことでコストを抑え、スピード感をもって新規事業を立ち上げやくする狙いもある。
新規事業を担う合弁会社を立ち上げる方式もあり、例えばJALとNRIグループは、JALの会員組織向けにデジタルマーケティングを展開するJALデジタルエクスペリエンスを19年に立ち上げている。一方、経営スピードの側面から見ると共同事業方式のほうが有利な側面がある。
NRIデジタルは、「どこかにシリーズ」を都市部から地域へ送客し、地域経済を活性化させるプラットフォームと位置付ける。第3弾に向けて、リモートワークの滞在先をランダムで満遍なく送客するといったビジネスを研究中だ。どこかにシリーズによって地域との継続的な関係を維持する“関係人口”を増やすことで、全国の地域経済を盛り上げ、自社のビジネスを伸ばす。
(安藤章司)