TISは、2027年3月期までの3カ年中期経営計画の中で、戦略事業ドメインに「社会課題解決への挑戦」と「共創型ビジネスの促進」の二つを新設した。これまでにない新しいテーマを設定し、向こう10年を見据えた成長の柱に育てていく。岡本安史社長は「ITはますます社会にとって欠かせないインフラ的要素が増える」と捉え、社会課題の解決に挑むことで、ITで社会インフラの一翼を担う企業としての地歩を固める。共創型ビジネスではさまざまな業種・業態の企業と連携していくことで、既存のSIビジネスとは一線を画す新規事業の創出を促進していく。
(取材・文/安藤章司)
社会インフラを支える立ち位置に
新設した二つの戦略事業ドメインではどのようなビジネスを展開するのか。
新しい中期経営計画では、昨年度(24年3月期)までの四つの戦略事業ドメインのうち二つを見直し、社会課題解決への挑戦と共創型ビジネスの促進を新設した。前者は「社会課題」という新しいテーマを設定し、後者は昨年度までのやや漠然とした「新規市場の開拓」を「共創型ビジネス」に絞り、ターゲットをより明確にした。ほかにもBPOなど業務サービスを「ITオファリングサービス」に集約する一方、有力顧客のITパートナーとして経営戦略に寄りそう「戦略パートナーシップ」については引き続き重点領域として継続していく(図参照)。
「社会課題」を重点領域の一つに位置付けたのはなぜか。
向こう10年を見据えたとき、ITはますます社会にとって欠かせないインフラ的要素が増していく。電力やガス会社がエネルギー、建設会社が道路や都市整備といった社会インフラを担っているのと同じ目線で、私たちSIerはITの領域で社会インフラを支えていくことが求められる。では、今、当社が社会インフラを十分に担えているのかと考えたとき、まだ不十分であり、おそらく今中計の3年かけても達成には至らない。まずは社会課題に真摯に向き合うところからスタートし、10年で社会インフラを支えるようなビジネスを育てていく。
岡本安史 社長
社会課題の事業領域は具体的にどのようなものを想定しているのか。
一例だが、みずほ銀行と協業して福島県会津地域で提供しているデジタル地域通貨サービス「会津コイン」の事業が挙げられる。スマホアプリで決済するもので、直近では地域の小売店など530店余りに加盟していただき、独自のポイント制度による集客や、地域に特化したデータ活用を通じて地域経済の活性化に役立ててもらっている。
また、千葉大学医学部附属病院と共同開発した地域医療情報連携システム「ヘルスケアパスポート」では、診療所や病院で行った検査情報などを共有することで、同じ検査を診療所と病院で繰り返さずに済み、患者の身体的負担の軽減や医療費抑制につなげる。診療情報の共有はPHR(個人健康情報管理)サービスと呼ばれ、私自身、ITベンダーや製薬会社、医療機器メーカーなど127事業者で組織するPHRサービス事業協会の副会長を務め、地域医療情報連携の普及促進に努めている。
戦略事業ドメインを80%へ増やす
新設した二つめの「共創型ビジネスの促進」についてはどうか。
会津コインはみずほ銀行と協業し、「ヘルスケアパスポート」は千葉大学医学部附属病院と協業しており、見方を変えれば「共創型ビジネス」の側面も持ち合わせている。社会課題と向き合うには当社単独では難しい場面も多く、結果として異業種との共創型ビジネスに発展する傾向が強い。両者の違いを端的に表すとすれば、「地域経済の活性化」だと捉えている。大都市集中が進むなかで地域の課題はより深刻化しており、解決への道筋も難しい。だからこそ腰を据えて社会課題に挑む価値が大きい。
会津コインで培った地域通貨のノウハウを国内外に横展開すれば、重点領域の三つめのITオファリングサービスとして通用する可能性が高く、戦略事業ドメイン同士の相乗効果が期待できる。決済は当社の得意分野で、強みをより伸ばすことにもつながる。
既存のITオファリングサービスと戦略パートナーシップの昨年度売上高は、会社全体の売上高の48%を占めたのに対し、32年度には新設した2領域と合わせて80%まで高めていく。内訳は新設の社会課題と共創型ビジネスがそれぞれ10%、ITオファリングと戦略パートナーシップがそれぞれ30%を想定している。
新中計ではM&Aに前中計の2倍余りの700億円の予算を組んでいる。その用途は何か。
▽戦略事業ドメインを後押しするような中核技術を持つ会社▽ユーザー企業の情報システム子会社▽先進技術を持っている会社――の3点に着目して出資やM&Aをしていく。とりわけ新中計ではASEANを中心とした海外売上高を昨年度の336億円から1000億円へ伸ばす計画を立てており、これを実現するにはM&Aは必須だと捉えている。M&A投資とは別に人材育成や研究開発、ITオファリング開発など内部強化に300億円を投じる予定だ。
こうした取り組みによって新中計の最終年度の連結売上高は6200億円(昨年度は5490億円)、営業利益率は13.1%(同11.8%)を目標に据える。10年で売上高を1兆円規模に伸ばしていくための基礎固めの中計と位置付けている。