視覚障害者向けのウェブブラウザ「IBMホームページ・リーダー」の開発を手がけるなど、誰もがインターネットの情報を利用できるアクセシビリティの研究に没頭してきた。
「文字装飾など視覚的効果が増大すればするほど、視覚障害者が得られる情報は相対的に下がる」
表現力が豊かになるデジタルコンテンツと、それに取り残される障害者とのギャップに危機感を抱いた。
コンテンツを耳で聞くと、フォント寸法14、イタリック、赤色下線、本文、フォント寸法14終了、イタリック終了、赤色下線…。付帯情報が多すぎて、本文の意味が分からなくなる。「すべてを音声に置き換えようとするから無理が出てくる」と気付き、本文以外を“触覚”に伝達する方法を発案。大学院で論文にまとめ、今年3月に念願の博士号を取得した。
本文情報はこれまでどおり音声で伝え、それ以外の視覚的効果は触覚デバイスで伝える。そうすれば視覚障害者が情報を理解する速度は飛躍的に高まる。現在、実用化に向けて急ピッチで研究を続けている。
「10年後、ユビキタス社会は必ず到来する。そのとき障害者、高齢者、子ども、怪我や病気で身体機能が低下した人など、すべての人がITの恩恵を受け、暮らしやすい社会を実現するキーテクノロジーがアクセシビリティだ」
次の時代にITを橋渡しするための研究に力を注ぐ。
プロフィール
浅川 智恵子
(あさがわ ちえこ)1958年、大阪府生まれ。82年、追手門学院大学文学部英語文化学科卒業。85年、日本IBM入社。東京基礎研究所でユーザー・インターフェイスの研究開発に従事。日本IBMに勤務しながら東京大学大学院工学系研究科先端学学際工学専攻で学ぶ。04年3月、博士論文「音声と触覚を活用した視覚障害者のための情報提示インターフェース」で工学博士号を取得。中学生時代の事故で失明したことが、この道に進むきっかけとなった。