慢性的な赤字だったメッキ加工会社の経営に参画して5年。それ以前はフリーランスでラジオやテレビのパーソナリティの活動をしたり、宝石鑑定の資格を取得したりと「経営とはまったく関係のない世界」にいた。サラリーマン経験もなく、組織の論理も知らないままだ。
経営者になってまず着手したのが、会社紹介や受発注を念頭に置いたウェブを立ち上げて、自社のサービスを広く知ってもらうことだった。インターネット上で顧客と業者を結びつけるマッチングサービスにも登録した。古い体質の業界だけに、自社のホームページもなかった。
効果は表れた。これまで取り引きのなかった顧客からの注文が1件入ったのだ。突破口が見えた瞬間だった。社員全員に、従来の大口顧客だけではない、新規顧客の開拓に希望の光を与える出来事だった。会社の業績は徐々に回復し、3年目の2003年1月期の決算で黒字転換に成功した。
1991年、当時の社長だった実父が若くして逝去。時を同じくしてバブル経済の崩壊。産業構造は大きく変化した。大口のメッキ加工は中国など人件費の安い海外へ流れた。会社の業績は悪化した。
「父が経営していた会社を建て直し、社員とともに幸せになりたい」。ただ、それだけの思いで社長に就いた。
「わたしは名経営者のカルロス・ゴーンさんではないので“V字回復”は無理。けれども、粘り強く会社に活力を与え続けたい」と、新鮮な風を社内に吹き込むことで、再び成長軌道に乗せる。
プロフィール
伊藤 麻美
(いとう まみ)1967年11月、東京生まれ。90年、上智大学外国語学部比較文化学科卒業。フリーランスでラジオ・テレビなどのパーソナリティを約8年間務める。98年、米カリフォルニア州の宝石学専門学校「ジェモロジカルインスティテュートオブアメリカ(GIA)」に留学。宝石の鑑定士・鑑別士の資格を取得。00年3月、メッキ加工の日本電鍍工業の社長に就任。