大学卒業後に入社した丸紅では、大企業を顧客として1000億円以上の大型プロジェクトに携わることが多かった。こうした案件を任されると、会社の業績アップに大きく貢献しているという満足感が湧いてきたそうだ。しかし、大きなプロジェクトに携われば携わるほど、金銭感覚が麻痺してくる。「“金額の重み”に鈍感になることに違和感を覚えるようになってきた。顧客に適した製品の提供に案件の規模は関係ない。金額にかかわらず、顧客を第一に考える会社をつくりたい」という思いから、同じ志を持つ11人でノックスを設立した。
設立当初は、企業規模の拡大を重視しなかった。「実を言うと、5年で会社を畳むことになるかもしれないと考えていた」と打ち明ける。「できるだけ稼いで、後はのんびり暮らそうという気持ちもあったしね(笑)」。ところが、「顧客のサポートなどを考えると、無責任に会社を終わらすことはできない」。社員を増やさず、「とにかく無我夢中で働いた」という。業績は順調に伸びた。
顧客の増加にともない、最適なサービスを提供していくには人が足りないと判断。設立5年目から人員増強を図っていく。社員が増えるにつれて会社の成長も視野に入れなければならなくなった。だからといって、「売上増だけを重視する人材は要らない」と、ポリシーは変えない。
「すべてのスタッフに、さまざまなプロジェクトを安心して任せられる」。社員全員に“顧客第一主義”が浸透しているようだ。
プロフィール
加藤 理
(かとう さとる)1950年、東京生まれ。74年3月、早稲田大学理工学部卒業。同年4月、丸紅に入社。アメリカ駐在を経て、92年、ストレージ事業を中心に手がけるノックスを設立。代表取締役社長に就任。