世界最先端のデジタル映像スタジオを備える富士ソフト秋葉原ビルは、総工費450億円という巨費を投じて今年2月に竣工。富士ソフトが、ここを拠点に映像事業を本格的に立ち上げることを知った丹内氏は、「我こそは!」と扉を叩いた。
サウンドエンジニアを目指す過程で、これまで2度、大きな転機を経験してきた。1度目は20代後半で自動車メーカーを飛び出し、映像業界に足を踏み入れたこと。2度目はデジタル技術をいち早く身につけたことだ。
大学の機械工学科を出て、日産ディーゼル工業に就職。将来がある程度保証された勤務先だったが、5年で違和感を覚えた。「以前から興味がある音楽の道に進むべきではないのか。自分は“就職”じゃなく“就社”をしたのではないのか」と自問した。思い描く職業に進むチャンスを逃したくなかった。
スタジオの現場は厳しい。早い人なら10代のうちからアシスタントとして修行を積み、30代手前で一人前になる。しかし、「周囲が独り立ちする年齢でやっと自分はスタートライン」。アシスタントとして徹夜の作業が続き、翌日の収録に10分遅刻したときは、その後しばらく仕事を干された。
制作技法がデジタル方式へと移行し、求められるスキルが大きく変わった。持ち前の集中力でデジタルのスキルを身につけ、スタートの出遅れを取り戻した。
サウンドは人に感動を与える。「音がなくても成り立つのは絵画と写真だけ。映像は音なしでは語れない」。スタジオとインターネットデータセンターを有機的に結びつけた秋葉原ビルから、「世界に向けて映像コンテンツを発信する」と、新たなチャンスをつかもうとしている。
プロフィール
丹内 俊浩
(たんない としひろ)1971年、千葉県船橋市生まれ。93年、日本大学理工学部機械工学科を卒業。同年、日産ディーゼル工業入社。98年、レコーディングスタジオのアシスタントに転職。00年、ゲームコンテンツ制作会社入社。05年、富士ソフト入社。世界最先端のデジタル映像スタジオを備えた富士ソフト秋葉原ビルでサウンドエンジニアを務める。