会社を起こしたはいいが、何をするかも決めていなかった。ただ、「ウェブを使った何かをしたいとは漠然と思っていた」。しばらくウェブ制作を受託していたが、06年、プログラマが入社したことから、初のサービスを立ち上げる。開発期間はわずか10日弱。社名をそのままサービスの名前にした「crooc(クルーク)」は、文章を作成し、投稿すると瞬時にURLを発行し、画像やMP3形式の音楽ファイルなどをアップできるウェブページ生成サービスだ。
アイデアはほとんど自分で考える。「他のサービスを使いながら、あるといいなと思ったものをエンジニアの協力を得て形にしている」。ただし、イラスト特化型SNS「pixiv(ピクシブ)」は「外注のプログラマが趣味で作ったもの」だそうだ。口コミで人気が高まり、サーバーがパンクする事態に。一人で運営することが困難になり、そのプログラマはクルークに入社。現在、「pixiv」はクルークのサービスとして運営している。ユーザーが自分でホームページを作成して絵を載せるだけでは閲覧者の反応がみられない。絵を気軽に見て評価してもらえる機会が増えたことがユーザーの心をつかみ、月間5000万─6000万PV(ページビュー)にもなった。その人気はグローバルに及ぶ。だが、人気と実益は別物。「話題にはなるが、儲からないことも分かった」。
いまはまだ受託で生計を立てている。受託と自社サービス。スポーツに例えれば“使う筋肉”が違う。「受託にはクライアントがいて、納期がある。自社開発は自由そのものだが、モチベーションも下がりやすい」。だが、受託で忙しかろうが、寝る間を削ってでも自社サービスを開発したいと考える。「もし足を止めたら、未来はないと思う」からだ。
プロフィール
片桐 孝憲
(かたぎり たかのり)■1982年、静岡生まれ。■大学在学中よりECやITシステム企業のスタートアップに携わり、Webサービスの開発を担当。■05年7月、クルーク株式会社を創業、代表取締役に就任。