第一印象は、学者肌の経営者。もともとは学生時代から続けてきた経路探索アルゴリズムの研究がビジネスの原点だ。博士論文は「大規模道路ネットワークデータにおける経路探索アルゴリズム」。大学院修了後は、父親が経営する大西熱学に入社し、研究開発室で研究を継続した。1996年には、インターネットが普及していたこともあり、社内ベンチャーとしてインターネットを利用した新規ビジネスを立ち上げた。「函館観光地経路案内サービス」がそれで、大学院時代の後輩で現副社長の菊地新と共に開発。最初に商用化されたナビゲーションサービスとして、サービスプロバイダなどに売り込んだ。
ただ、大西熱学は試験装置メーカーで、空調システムなどを手掛けており、事業としてはまったく関わりがない領域。「今の副社長の菊地と一緒に会社を立ち上げた」。2000年の会社設立時の社員数は5人だったが、「PDAが発売された時、メーカーはPCとの差異化に悩んでいた。持ち運びの際に便利な乗り換え検索だとか地図表示は、従来、PCのメモリでつくられていて載らなかった。こういうのができるんですと提案したら、ブランド関係なしで受け入れられた」。そんな実績の積み重ねがあり、「モバイルの分野ではすでにある程度の知名度は得ていた。設立記念パーティをホテルオークラで開催した際には、地図メーカーや端末メーカー、通信事業者など100人くらいが集まった」と振り返る。
引き合いは多かったものの、社員が少なかったため、昼間は営業に出かけ、帰社してから終電の時刻まで開発に取り組んだ。就寝は午前4時くらいになるという生活が5年ほど続いた。
同社ではイメージキャラクターとして外国人モデルを起用している。日本人のタレントや俳優を用いていないのは、世界に通じる「ナビゲーションでデファクトスタンダードを目指す」という強い意志の現れだ。ナビタイム「ジャパン」という社名も、世界を見据えて名づけたそうだ。(文中敬称略)
プロフィール
大西 啓介
(おおにし けいすけ)1993年、上智大学大学院理工学研究科電気電子工学博士後期課程修了。工学博士。試験装置メーカーの大西熱学に入社。開発研究室長として大学院時代に没頭した経路探索アルゴリズムの研究を継続する。96年には、社内ベンチャーとして経路検索エンジンのライセンスビジネスを立ち上げる。2000年に大西熱学から分社独立し、ナビタイムジャパンを設立。代表取締役社長を務める。