安千洪(アン チョンホン)は、高校生の頃に趣味でプログラミングコードを書くほどのコンピュータ好きだった。現在は、リモートサポート・ソフトウェアを取り扱う韓国メーカー、RSUPPORT(アールサポート)の副社長兼日本支社長を務めている。彼は一貫してIT業界でシステム開発に携わってきたわけではない。むしろ“回り道”をしながらたどり着いた場所だった。
大学では、「特段の理由もなく」経営学を専攻。サムスングループに入社後、管理・経理業務に従事していた。入社して3年後の1988年にソウルオリンピックが開催された。海外旅行が自由化された89年に、日本に渡って1年間、語学研修を受けた。NECの「PC-9800シリーズ」などを通し、コンピュータに対する関心を深めた、と振り返る。
帰国後は、語学力を買われ、秘書室で日経テレコンなどを活用して情報収集の任に就いていた。その間に「知らず知らずのうちにシステムに関わっていた」。社内コンテンツ共有システムの構築で陣頭指揮を執り、システム開発の企画を担当することになった。
「韓国にもグローバル化の波が押し寄せてきていた」という90年代は、英語の壁にぶつかった。安は、持ち前の行動力で、ニュージーランドに渡ることを決断した。「台湾やロシア、フランスなどあらゆる国の人とつき合い、視野を広げることができた」。
ITバブルの波に乗って、安はグループ内でベンチャー企業を立ち上げたことがある。しかし、バブルが弾けて経営が悪化。当時マーケティングチーム長を務めていた安は、責任を取って辞職することになった。現在の本社社長らとRSUPPORTを共同で創業したのは、それから間もなくだった。
同社の製品は、今や韓国の遠隔制御ソリューション市場でトップシェアを取るまでに成長した。
「世界で一番便利なリモートツールをつくりたい」と話す安千洪。やるべきことをやれば、チャンスは必ず訪れると信じている。(文中敬称略)
プロフィール
安 千洪
(あん ちょんほん)1967年、韓国生まれ。1985年、サムスングループに入社。会長秘書室やサムスン生命などを経て、2000年にインターネットセキュリティ企業SECUi.COMを創業。2002年、RSUPPORTで営業とマーケティングを担当。2006年、RSUPPORTの日本支社を設立し、支社長に就任。現在に至る。