杉山一郎は、デジタルフォレンジック(電子証跡)の最先端技術を追求する若手エンジニアだ。「家族が失踪した」「不正を働いた役員が証拠となるメールを消した」「標的型サイバー攻撃を受けている」など、さまざまな案件が飛び込んでくる。消されたデータを復旧して、“動かぬ証拠”をあぶり出すのがデジタルフォレンジック技術者の仕事である。
福岡でデータ復旧の仕事をしていたとき、杉山はフォレンジックに関わった。当時は認知度が低く、技術も未整備で、ビジネスとしても精彩を欠いた。だが、あきらめきれず、フォレンジック先進国の欧米技術者のレポートやブログ、はたまたRSSやTwitterのフォロワーとなって情報を収集。「とにかく世界の先端を行く技術者が発信する言葉を拾うところから始めた」と、ネット時代ならではの学習法を身につける。ビジネスが少し軌道に乗り始めた頃、欧米で開かれたカンファレンスに出かけて直接話を聞きに行った。
フォレンジックは、今や企業や官庁、弁護士など幅広い層から依頼がくる。より高度な技術を求められる仕事も増えた。例えば、今、まさに攻撃にさらされている標的型サイバー攻撃では、「メモリやネットワークを流れるデータをライブで分析・記録するライブフォレンジックによって、相手の狙いは何か、どのような手口で侵入したのかの証跡を再現可能なかたちで残す」。昔のようにパソコンからHDD(ハードディスクドライブ)を取り出して分析する手法はもはや通用しない。
駆け出しの頃は、欧米技術者から多くを学んだが、現在は国内外の技術者と歩調を合わせながら、グローバルな視野でフォレンジック界の技術振興に努めることを心がけている。(文中敬称略)
プロフィール
杉山 一郎
杉山 一郎(すぎやま いちろう)
1979年、宮崎県生まれの福岡県育ち。02年、金沢大学工学部を卒業し、東京の住宅建材会社に就職。04年、福岡のデータ復旧会社に転職。10年、サイバーディフェンス研究所に移籍して現在に至る