眞弓映二は、営業本部を統括する社内最年少の役員だ。これまで、彼が独自に編み出した“受け皿の広い営業スタイル”を生かして、受注件数を積み上げてきた。
会社では、技術者が客先に入り込んで現場をみながら営業を行う方式をとっている。技術畑出身で営業ノウハウに乏しかった眞弓は、最初はまったく商材を販売できなかった。「挫折して、退職したいと思った」。
とはいえ、会社を辞めて逃げることはそれよりもイヤだった。悩みに悩んだ末に、「苦手意識があるのは、一度提案を断られたときに、次に何を提案したらいいのかがわからないからだ」と気づく。そこで、「商材は何でもいい。会社が売りたいものではなく、顧客が必要としているものを提案しよう」と結論づけた。“受け皿の広い営業スタイル”が誕生した瞬間だ。その後は、顧客のニーズを汲み上げるために、訪問先企業1社あたり20人もの担当者から課題をヒアリングする毎日。担当領域のネットワーク設備の工事にこだわらず、「カーペットの取り替えなど、ITとは関係のない案件でも、顧客のニーズがあれば何でも請け負った」。
こうした眞弓の行動は、顧客の間にクチコミで広がった。どんな小さな案件でも請け負ってくれる眞弓は、顧客にとっては使い勝手がいい。案件をコツコツと獲得していくうちに、眞弓は顧客との信頼関係を構築。次第に大型の案件も増えて、数年後には社内トップの営業マンとなった。
現在、眞弓が統括している営業本部は、3年前に自らが立ち上げた組織だ。それまで、会社は事業部制で、営業担当は顧客に提案できる商材が所属する事業部の商品に限られていた。そこで、「当社が提供するすべてのサービスを提案できる体制を敷いた」。独自の営業スタイルが、会社の基本方針として根づいてきた。(文中敬称略)
プロフィール
眞弓 映二
眞弓 映二(まゆみ えいじ)
1979年、東京都生まれ。工業高等学校の電気科を卒業した後、電気工事会社に就職し、オフィスや工場の電気設備の施工に携わった。2年間、その仕事に従事した後、通信系の会社に転職してネットワーク設備の施工管理を担当。その後、システム開発やインフラ構築、人材サービスなど、ITのトータルソリューションを提供している日本ディクスに入社した。技術と営業を兼務して経験を積み、営業本部長に就いた。