飛行機に乗って海外旅行にいく。白石辰郎の趣味だ。ただし、好きなのは海外旅行ではない。飛行機に乗るのが好きなわけでもない。フライトスケジュール通りに飛んでくれないというリスクが、何とも楽しいのである。出発が遅れることはよくあるものの、結局は「だいたい納まっている」という曖昧な世界に、白石は自由を感じている。苦手中の苦手といえば、日本の鉄道。時間に正確過ぎて、どうも居心地が悪い。
固定電話が、携帯電話の普及によって衰退していった。携帯電話が実現したのは、どこでも電話ができる自由。飛行機のように曖昧ではないが、やはり自由は素敵だ。固定されていないのに、しっかりと利用者に課金される。
「電気でも同じことができるはず」。白石は思った。どこで使っても、利用者に課金されるのであれば、電気が自由になる。これを白石は「電気に色をつける」と表現する。電力自由化も追い風となる。色をつければ、場所に関係なく太陽光発電の電気しか使わないというような自由を得られるからだ。
この発想が「ユビ電」事業としてかたちとなった。瀬戸内海の豊島(香川県)で電動二輪車のレンタルサービスと連動し、利用者向けのサービス基盤として利用されている。また、奈良県の明日香村も、観光客が利用する電動二輪車向けで採用した。観光客が観光地巡りに電動二輪車を使い、食事をするときに店舗で充電する。電気料金は店舗ではなく、利用者に請求される。
「ユビ電」事業は、ソフトバンク社内のベンチャー制度で提案して、優勝したのがきっかけでスタートした。プレゼンを聞いた孫正義社長は言った。「いいにおいがする」。とはいえ、色づくのはまだ先のこと。いい香りが漂うようになるのは、その後だ。(文中敬称略)
プロフィール
白石辰郎
(しらいし たつろう)
1978年、鹿児島県生まれ。2003年ソフトバンクテレコム入社。その後転職して異業種に従事するものの、08年、ソフトバンクに戻る。11年にソフトバンク社内のベンチャー制度「イノベンチャー第一回」で、山口典男博士とともに提案した「ユビ電」ならびに「e-kakashi」で優勝し、事業化へと進む。16年、プロジェクトマネージャーとしてパーソナルモビリティ向けの「瀬戸内カレン」をローンチ。現在は、ソフトバンクからPSソリューションズに出向中。