だからこそ「所有から利用」へ
機器販売には逆風
サービスへの傾注が実を結ぶ サービス化やアウトソーシング化は、「所有から利用」への流れにほかならない。サーバーやパソコン、ネットワークなどの機器販売を強みとするSIerには逆風が吹き荒れている。厳しい局面でも受注に結びつく商材は何かを見つめ直し、「不況だからこそ売れる」製品・サービスを模索する。キーワードは「運用コストの削減」と「サービス化の推進」だ。
販売系SIer
「仮想化」提案が輝き増す
運用コスト削減策で即効性
プラットフォームビジネスを得意とする販売系、メーカー系のSIerにとって「サーバー統合」や「仮想化」は最も強みを発揮しやすい領域。ユーザー企業が使うIT費用のうち6~7割は既存システムの維持運用に費やされるコストといわれている。これをどう削るのかが不況下における最優先課題に浮上している。
運用コストの削減に効果的なのが、サーバー仮想化の技術だ。ブレードサーバーと仮想化技術を活用して最適なリソースのみを確保。余分な物理サーバーを削減することで電力カット、省スペース化などさまざまな面でコスト削減に実効性がある。少しでも運用コストを削減したいユーザー企業にとって、こうした仮想化の仕組みは、「不況時により輝きを増す商材」(SIer幹部)となって映ることだろう。ブレードと仮想化の二つのキーワードを武器に「運用コストの削減ソリューション」などと銘打って売り込む価値は十分にある。日本事務器はすでにこうしたニーズを見越して大々的な仮想化ソリューションのキャンペーンを張って、PRに余念がない。
ただ、こうしたコスト削減策は、いわば「守りのIT」であって「攻めのIT」とは言い難い。ユーザー企業が売り上げを確保する、あるいは伸ばすためには、サービス商材の増強が不可欠。SaaS・クラウド型のサービスは、ユーザーがシステムを保有することなく、安価にアプリケーションの機能だけを利用でき、いわば「安く」「早く」そして「簡単に」導入できる。一般的に中小企業の領域に適しているといわれるが、少ない投資で素早くシステムを稼働できるメリットは、不況時にこそより大きくクローズアップさせるべきものだ。
SaaS型サービスとしてユニークなモデルを創出したのがNECネクサソリューションズである。「業績連動型」のSaaS型サービスがそれだ。サービスを購入したユーザー企業の業績に応じて料金が変わる仕組みで、ユーザーの業績が上向けば料金も上がり、業績が下がれば料金も下がる。一般的に、SaaSやASPと呼ばれるITサービスの料金(価格)体系は月額や年額で固定されている。その概念をNECネクサは打ち砕いたのだ。
成果に結びついた分の利用料金を支払えばよいので、ユーザー企業は「投資対効果」が明らかになり、導入に傾きやすい。NECネクサは、今次の不況を見越してこのサービスを始めたわけではないが、内定を含めてすでに4社から受注済み。今年度(2009年3月期)内には累計10社の顧客獲得を目標にしており、順調な滑り出しだ。ハード販売やソリューションを得意とするSIerにとっては、ASPやSaaS型サービスは不慣れな分野かもしれないが、この不況をチャンスと捉えてサービスビジネスを開始し、来たるべくクラウドコンピューティング時代に備えるというのも手だ。
事務機ディーラー
“箱売り”脱却、自明の理
事務機もサービスと仮想化
事務機器系のメーカーやディーラーも、不況対応体制への移行を急ピッチで進める。低コストで導入が容易な富士ゼロックスのITマネジメント・アウトソーシングサービス「beat(ビート)」は、同社グループ内で「注目の製品」に位置づけられる。
インターネットとLANの間に「beat─box」というアプライアンス・サーバーを設置。このサーバーを介してウイルスやスパイウェア、不正な通信の防御などセキュリティ対策サービスを提供するものだ。
ユーザー企業側はこのアプライアンス・サーバーを置くだけで、同社の「beatコンタクトセンター」の監視サービスを利用でき、障害発生などへの迅速な対応が可能になる。仮に、同サービスの機能をすべてソフトウェアで賄うと、製品購入費だけで相当な高額になり、IT管理者が不足する企業には運用管理の負担が増す結果にもなりかねない。運用管理にかかるコスト負担も大幅な軽減が可能で、不況時においても利用増が期待されている。
「beatサービス」の対象は、中小上位から中堅下位の企業。同じ領域でデジタル複合機(MFP)を販売する同社グループ販社が中心に拡販を進め、7年間で約60万クライアントへ導入した。08年12月には、中小下位の企業を対象にした小型版「beat─entry」のサービスをスタートした。
グループ外の販社とも手を組み、すそ野を広げる計画である。「ユーザーにとっては中・長期的なコスト削減策になり、販社にとっては売りやすい商材」(富士ゼロックスの工藤雪夫・営業推進センター長)と、新たなアライアンス策で活路を切り開く。
“箱売り”を中心に事業展開していた事務機メーカーやそのグループ販社も、不況を乗り越える対策の一環としてサービスや仮想化へのシフトを加速させている。リコーの保守会社、リコーテクノシステムズ(RTS)は08年12月、国内初のサーバー仮想化環境への移行可否を無償確認する新サービスを開始。ヴイエムウェアの「VMware ESX」環境に移行できるか否かを確認し、複数サーバーの統合策などを提案していく。
仮想化をテーマにしたユーザー企業のIT管理者向け無償ハンズオン(体験学習)セミナーは、いずれも満席状態。既存顧客に加え、「新規顧客が多いのも特徴」(RTSの岡島秀典・執行役員)と、すぐにでも運用コスト削減やIT資産の有効活用に取り組みたい企業が多いことの現れだ。不況下にあっても引きが強いサービスプロダクトは確実に存在する。
ネットワーク販社
事業継続向け負荷分散が好適
関連案件の受注も見込む
ネットワーク系販社(NIer)は、ユニークな製品を海外から調達してくるNIerらしい差別化策を改めて認識し始めている。「原点回帰」ともいえる動きであり、他社にはないNIer本来の強みの再強化に力を入れる。不況だからこそ「事業継続」を意識するユーザー企業が多いとの判断から、「負荷分散やバックアップ関連の製品・サービスが注目を集める」(シーティーシー・エスピーの熊崎伸二社長)とみている。バックアップ製品がきっかけとなり、関連するネットワークインフラの受注件数拡大への待望も入り交じる。ここ数年、ネットワーク機器をとりまく環境は低迷。このままでは「ネットワーク事業で生き残れない」(NIer幹部)とする共通の見解がある。今回の不況は、腰を据えてネットワークビジネス事業を見直す強い動機づけになりそうだ。
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