国内IT投資は、景気低迷の影響を受けて減速傾向にある。これを逆手に取り、ユーザー企業の「コスト削減要求」に応えたITベンダーの策が、徐々に需要を生み出している。こうしたなか、ITベンダーではシステム導入のイニシャル(初期投資)を稼ぐビジネスモデルから運用保守案件を増やすことで収益を得る「ストック型」のモデルへの転換を図り始めた。
コスト削減を機に「全体最適」へ 日経平均株価はこのところ、1万円を超える値動きを示している。米国経済の持ち直しや、自動車など国内大手製造業の在庫整理・生産回復などで経済に「底打ち感」が出てきたためだ。ただ、中堅・中小企業を中心に企業の業績不振は続き、売り上げが伸び悩むなかで、管理費や固定費を削減しようとする動きが根強い。景気の動向に左右されやすいIT業界ではあるが、ここにきて「コスト削減要求」を逆手に取る戦略がユーザー企業に受け入れられるようになってきた。
ユーザー企業に対しては、新規IT投資をするのであれば将来的なTCO(総所有コスト)削減策を含めて提案することが必須要件となっている。逆に、IT投資の6~7割を占める運用保守費を引き下げる提案であれば、一度は耳を傾けてくれる状況にある。ここに着眼したITベンダーが繰り出すあの手この手の策が奏功し始めているのだ。
好景気の頃には、資金が潤沢なユーザー企業の多くは「部分最適」用にIT機器を相次いで導入した。しかし、今はこのシステムが重荷となり、運用保守費を増大させ、あるいは「動かないコンピュータ」にしてしまっている。「必要な分だけつくり、利用する」という最近の傾向は、「部分最適」から「全体最適」へと方向を転換し、国内企業が「ITで元気」になるチャンスを得るきっかけにもなっている。
80%Off
ソフトサービス
基幹系も“雲”の先から利用
景気低迷を受けてユーザー企業の「コスト削減要求」は高まる一方だが、逆にこのニーズがソフトサービスベンダーにビジネスチャンスをもたらしつつある。ユーザー企業の受注環境が厳しいなか、「ユーザー企業は、依然としてコスト削減を最重要視している」(NTTデータの榎本隆・副社長)ため、これに応えられるシステムをうまく提案することで需要を生み出せるからだ。
「コスト削減」に対する要求は、次の二つに分類できそうだ。「ITを活用してコストを下げる方法」と「企業システムの運用コスト自体を下げる方法」だ。財務状況が厳しい折だが、前者を選択する例が少しずつ現れてきた。しかし、コストを下げるためにITシステムを新たに導入する資金的な余裕はないため、必然的に既存システムの維持費をいかに下げるかに関心が向いている。
こうしたなかで、ユーザー企業のITシステムの運用コストを5分の1に下げることを目指すERP(統合基幹業務システム)ベンダーのワークスアプリケーションズは、2009年4~6月期で売上高が回復に転じた。同年1~3月期は「激しい逆風下」(牧野正幸CEO)にあって落ち込んだが、同社のコスト削減提案はユーザー企業の財布の紐を緩めたようだ。同社のユーザー企業のなかには、TCOを一律2割削減する厳しい目標を掲げるところもある。こうした顧客にとってコスト削減を可能にするERPは魅力的に映る。
ところが、同社とて安泰ではない。基幹システムの“要”であるERPに、「クラウド/SaaS」の流れは着実に押し寄せている。ワークスアプリケーションズの最大の特徴である「IT運用コスト削減」策をクラウド時代に移行しても持続させるためには、新たな施策が求められる。牧野CEOは、「すべての有力なクラウド基盤で稼働するERPをつくったほうが得策」としつつ、今後、企業システムの運用コストの多くを占めることになるクラウド設備や基盤の選定に関する情報には敏感に反応する。すでに、アマゾンの商用Webサービス「Amazon Elastic Compute Cloud(EC2)」上では、クラウド対応のERP製品など一部開発を始めているようで、他のクラウド基盤への対応も検討中だ。
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