中部・東海・信越地域
通信と情報融合で新サービス
IBMのクラウドと同一歩調
「クラウド/SaaS」の潮流は、全国展開するSIerだけでなく、地域SIerを巻き込んで大きなうねりになってきた。静岡県に本社を構えるビック東海は、2008年4月、焼津市内に最新鋭の設備を備えた「第二データセンター(DC)」を開設し、大規模仮想化システムの運用をスタート。現在までにこのDCを活用して「クラウド型ストレージ」や「仮想化プラットフォーム」「オンデマンド・ホスティング」「SaaS型メールサービス」など、矢継ぎ早にサービス型商材を投入。DCビジネスが一気に花開いている。
ビック東海がこれだけのサービスビジネスを立ち上げることができるのは、CATVやインターネット接続サービスを手がけるグループ会社の旧トーカイ・ブロードバンド・コミュニケーションズと2005年10月に合併したことが関係している。両社のグループ会社であるTOKAIグループは「通信と情報の融合が急速に進む」と判断。ソフトウェア開発やSI(システム構築)を主体に展開する旧ビック東海と合併することで、より付加価値の高いサービスを提供できると目論んだ。振り返れば、この判断には、かなり先見の明があったといえる。
首都圏から関西圏に至る強固な通信基盤をテコに、アウトソーシングや通信サービスの提供先を増強した結果、09年4~9月中間期の利益予想を上方修正。通期では、厳しい受注環境にありながら、増収増益を見込む。同社に関しては、通信と情報を融合したサービス商材の拡充は、「不況に強いビジネスモデル」(早川博己社長)として、すでに軌道に乗っているのだ。
これらの収益力を生かし、設備投資は手を緩めずに積極的に行う。今年度(2010年3月期)は光回線網で61億円、通信設備で18億円、DC設備で10億円といった投資計画を立てている。総投資額は、前年度比約20%増の92億円余りに達する。先行投資ではあるが、新たなサービス商材を生み出し、競合他社に先行して「クラウド/SaaS」などサービス型提供のシェアを一気に拡大し、顧客を早期に囲い込むことで、景気に影響されない好循環をつくる考えだ。
30期連続増収を成し遂げてきた岐阜県の電算システムは、今年7月、IT集積地でもある大垣市に防災対策を施したデータセンター(DC)を増設。「岐阜県情報スーパーハイウェイ」や光回線網を活用し、付加価値の高いサービス商材の拡充を急いでいる。最終的には、このDCだけでサーバー600台相当を運用するサービス拠点にする方針。同社は、ガソリンスタンドやコンビニの「料金代行収納サービス」をベースに安定的な成長を遂げ、08年10月に株式上場を果たしている。
同社は堅実な事業運営を継続しつつ、次を見据えた戦略を早期に打ち出している。SI分野では東京にある富士ソフトなどと並んで最も早いタイミングで「クラウド・コンピューティング」で先行する「Google」と販売提携。ERP(統合基幹業務システム)のSAPなどと並んで競争力のある「次世代型情報システム」と呼ぶシステムの提案活動を活発化させている。電算システムの宮地正直社長は、「ソフト開発だけでは、差別化が難しくなっている」と、ガソリンスタンドなどの収納代行で培った「ストック型ビジネス」のノウハウをSI領域へ積極的に応用し、持続的成長が可能なビジネスモデルの構築を急ぐ。
三重県にある建材製造業の松阪興産。このシステム事業部に属するマナックシステムズは、サーバーやクライアントパソコンの仮想化に取り組んでいる。
三重県は全国的にみても光回線やCATV網が充実している。日本IBMのビジネスパートナーである同社は、IBMがグローバルで展開するクラウド戦略と歩調をとりながら「地域に根ざしたITサービスを充実させる」(横山伸明・システム事業部長)と意気込む。大手ITメーカーの力を借り、地域で展開できるサービス型の提供モデルを模索しているところだ。
長野県で最大手SIerの電算は、老朽化している現社屋を移転し、跡地を隣接する現在の「電算SDC(データセンター)」を拡張する場所として利用する。新社屋は、年金・保健福祉施設整理機構の施設「長野厚生年金会館(ウェルシティ長野)」の場所に建設。同社の黒坂則恭社長は、増え続ける自治体や企業のアウトシーシングに備える一方、「『クラウド/SaaS』の利用場所としても確保した」と、次の世代に向けた投資であると説明する。
新潟県のCEC新潟情報サービスと山梨県のシステムインナカゴミは、同様の戦略を口にする。企業システムを預かり、自社DCで運用保守する案件が増えるため「運用保守のプロフェッショナルを育成している」と、時代の流れを敏感に感じ、備えを開始した。
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