九州・沖縄地区
クラウド/SaaSに乗り出す
中抜きへの危機感も
宮崎県を本拠地とするデンサンは、法人向けポータルサイトとして提供している「miten(ミテン)」の会員企業拡大に向け、地元中堅・中小企業(SMB)へのシステム提案を行う営業活動に力を入れている。「東京を中心とする大都市圏でのビジネスが、予想に反して鈍化している」(渡邉得祥社長)ためだ。宮崎県でトップレベルのITベンダーという地位を確固たるものにするため、「地域活性化に取り組むことが、当社の事業拡大につながる」(同)と判断しての策だ。同社のポータルサイトは、SNSサービスを展開していることが特徴の一つ。「一般企業の会員の全国へのPR活動の支援を拡大したい」(同)と話す。月額課金制で利用しやすい価格に設定して地元のSMBを取り込むことが、この事業を軌道に乗せるうえで重要な要素だと判断している。
沖縄県のオーシーシーでは、「3年以内に『クラウド/SaaSサービス』を本格的に展開する」(幸田隆・常務取締役営業統括本部長)と、社内外に宣言している。その前段階として、アウトソーシング事業に着手した。同事業は「ITシステムのコスト削減という観点から法人向けにニーズが出てきている」(同)と、幸先よいスタートを切った。現在、3社から「クラウド/SaaS」サービスの利用に関する引き合いが来ている。同社の「クラウド/SaaS」事業は、「自社保有するデータセンター(DC)をどう生かすかを検討した」ことから始まっている。昨年度(09年3月期)からは、DCのシステム増強を開始。自社開発した独自アプリケーションのSaaS化することも急ピッチで進めている。
長崎県の富士通系列ベンダー、オフィスメーションも、販売管理やSMB向けの基幹業務システムなどがラインアップされている独自開発ソフト「電脳」シリーズのSaaS化を進めている。「SaaSに関しては、総務省や経済産業省が推進する方針を打ち出しており、県内でも拡大するだろう。当社としても、将来のストックビジネスにつなげていきたい」(石橋洋志社長)と、早期に構築したDCの活用を、県内で先駆けて実行に移している。
同じく富士通系列ベンダーである福岡県のエコー電子工業は、富士通のDCを利用し、セキュリティマネジメント事業を展開する東京・豊島区のエイ・アイ・エスからOEM(相手先ブランドによる生産)供給を受け、同社と開発した静脈・指紋認証勤務管理システム「ちゃっかり勤太くん」をライセンス方式の「クラウド・サービス」として、提供を開始する。また、タクシー会社向けに独自開発した販売・給与管理システムのクラウド対応も計画中だ。しかし、同社は自社でDCをもたない方針。「アプリケーションの開発に集中する」(小林啓一社長)と、設備投資をせず同業他社と連携した「クラウド/SaaS」モデルを模索している。
大分県の独立系ベンダー、オーイーシーはバリアフリー型の公共施設予約システム「eG-Reserve」で、「SaaS/ASP」型のサービスを開始。すでに、三鷹市や新潟市など17自治体が利用している。次の展開として「クラウド/SaaS」サービスを実施する際は、業務サービスや県域データセンターシステムの分野で、大分県内の市町村の共同利用を推進する方針だ。「当社の自治体向けソリューションとDCの活用を前提に進める」(森秀文社長)考えで、関連会社の自治体用DC「大分県自治体共同アウトソーシングセンター(OLGO)」と共同の取り組みを始めている。
熊本県のNEC系列ベンダー、KISではNECと地元の崇城大学と組んで「クラウド/SaaS」型でゲームソフトを配信する実験を開始した。「『クラウド/SaaS』の取り組みは必須と考えるが、まだ手探り状態」(野田正昭社長)と、ゲーム配信で技術やノウハウを得る目的がある。同社では「IT業界全体の動向を見ながら、このような形で経験地を積み、必要なものは何か、また何が地方で生かせるのかを探していく」(野田社長)として、慎重に新規事業を構築していく考えだ。
一方、他の販社にもみられるように「クラウド/SaaS」の本格普及に対し、不安感を抱くITベンダーもある。「システムが東京に集中し、大手が地方ベンダーを淘汰する可能性がある。強い商品を持たないと呑み込まれる」と、佐賀県にある佐賀電算センターの下村宗治専務は危機感を隠さない。先のエコー電子工業の小林社長も「東京が中心になり地場ベンダーが中抜きになる」と警戒している。
「クラウド/SaaS」を指向するITベンダーがいる一方で、こうした不安は、地方の業界に拡大している。しかし、仮に東京中心に「クラウド/SaaS」基盤ができたとしても、地方企業に対しては地場ITベンダーの迅速なサポート対応が求められてくる。各社はそこに生き残りのカギがあるとみている。
地域で“地上戦”を繰り広げる地場ITベンダーとどう連携していくかが、大手メーカーや大手SIer、業務ソフトベンダーなどに降りかかってくる課題である。