中部地区(北陸)
新規事業を凍結、主力に集中
多様性重視で地域企業に報いる
中部地区は、トヨタ自動車を中心とした製造業の活況に引っ張られ、2年前まではIT産業もその恩恵に浴した。ところが、「リーマン・ショック」で輸出型企業が一気に落ち込んだ影響で、域内経済が急速に冷え込んだ。大打撃を受けたITベンダーの経営環境も激変することとなった。北陸や甲信越地区でも、大手製造業に関連した部品工場などで派遣労働者の解雇が相次ぐなど、苦況にさらされた。
建築CADで業績を伸ばしてきた“優良ITベンダー”の福井コンピュータは、昨年度(2009年3月期)、赤字に転落した。6期ぶりのことだ。近年では住宅の構造計算の「偽装問題」で建築確認手続きに時間がかかり、一時的に新規住宅着工に遅れが生じる事態に遭遇したことがある。それでも「リーマン後は住宅需要そのもののが冷え込んだので、次元が違う」(金牧哲夫常務取締役)と、厳しい時期に直面している様子を語る。
赤字転落の主因は、グローバル展開の“旗頭”と位置づけていた中国拠点が重荷になったことや、成長が見込めると参入した健康関連向けなどの新規事業の不振だ。世界的に市場が縮小するなかで、本業であるCADの収益が低下。これに、収益基盤がまだ安定していない新規事業の負担が加わった。福井コンピュータは前期終了時点で、主要な新規ビジネスの凍結や延期を決断。「もう少し頑張りたい」と訴える担当役員は涙を飲んだそうだ。「リーマン・ショック」からわずか半年。電光石火の勢いで新規事業を相次いで凍結・延期し、本業への集中を明確化し「今上半期は厳しいなかで、ほぼ予想どおりに進んでいる」(同)と、通期の黒字化を見込んでいる。
パッケージソフトベンダーとは異なり、事業を絞ることが難しい大手SIerはどうなのか。富山県に本社を置くインテックの金岡克己社長は、「多様性によるリスクヘッジ」を重視する。インテックグループとTISグループが経営統合して発足したITホールディングス(ITHD)は今年4月から初めての「3か年経営計画」をスタートさせた。経営計画では、インテックグループとTISグループの双方の顧客に向けて、それぞれが強みとする商材を売り込むクロスセルの展開などの分野では全面的に協力している。
だが、両グループの事業を大胆に集約し、一本化するような大ナタは振るわない。一見すると経営統合に遅れが出ていると勘ぐりたくなる。この点について金岡社長は、「先が見えにくい情勢だからこそ、多様性が強みとなる」と冷静に捉える。今のITHDを誤解を恐れずに喩えるならば、“北陸と関西、首都圏を地盤とする複数のスーパーが合併したようなもの”ともいえる。規模の拡大で、共同仕入れなどのメリットを最大限に享受しながら、一方で地域に根ざした多様性のあるビジネスを展開する。
情報システム関連事業で約350億円を売り上げる福井県最大手SIerの三谷商事も、多様性を重視する立場だ。「クラウド/SaaS」の台頭など、ITのアーキテクチャが移行期にある現在、「当社の顧客にとって最もコストを下げることができ、経営や事業の生産性を高められる品揃えや提案を最優先させる」(早瀬啓一執行役員情報ソリューション事業部長)と、扱う商材の幅を広げて顧客本位のビジネスに徹する。ただし、特定分野で成功パターンが確立すれば、素早く同様の業種や企業規模の顧客への“横展開”を進める。多様性のなかから成功パターンを掴み、全国主要都市へ展開していくことで突破口を見いだす考えだ。
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