九州地区
地震少ない立地生かし、DC設置
アウトソーシングで顧客掴む
九州地区は、製造業に提供する組み込みソフト会社が軒を連ねる。また、北海道などと並び北部九州は「IT集積地」として名高く、不況期の事業転換も早い。同地区は地震が少なく、データセンター(DC)を置く地域としてふさわしいと、5年ほど前から地場ITベンダーがこぞってDCを設置した。当初は、見込んでいた首都圏からのアウトソーシングやDCでのシステム“預かり”商売は軌道に乗らなかったが、この不況を契機としてDCを活用した事業が伸び始めた。
長崎県の富士通系列ベンダーのオフィスメーションは、ASPの普及を見越して8年前、自社ビルを新築してDCを開設した。首都圏にある企業やDC会社のデータを預かるストックビジネスに乗り出している。「長崎県は地震が少なく、他の地域に立地するデータセンターが地震に見舞われた時のために必要なバックアップの需要が見込める」(石橋洋志社長)と判断してのことだが、まだ目算通りには事が進んでいない。
DC事業はまだ赤字だが、「将来の成長に向けた投資と考えている。自治体案件の入札で勝った負けたで売り上げが左右されることなく、安定したビジネスが構築できる」(同)と、将来を見越して手を緩めない。今後は「クラウド/SaaS」の普及が“追い風”になるとみており「SaaSには、DCが絶対に必要になる。DCを作ったことは間違いではなかった」(同)と、自らの先行投資を評価している。
新規事業で成長戦略を描くITベンダーもある。福岡県にある富士通系列ベンダーのエコー電子工業は、組み込みソフト開発と地元企業の「ホームページ作成代行ビジネス」を開始した。現段階で力を入れているのはホームページ作成事業のほうで、Webサイトの制作だけでなく、SEO対策やアクセス獲得などのコンサルティングも行なう。これまでに地元百貨店や通販会社などから受注している。サービス単価は安いが、幅広く顧客を獲得することで売り上げ伸長に結びつくと判断している。小林啓一社長は「拾い上げると、潜在ユーザーはたくさん存在する」とみており、ネット通販を手がける企業などには販売管理システムとの複合提案も考えている。
アウトソーシングを推進し、自社の強みを高める取り組みをするのが大分県の独立系ベンダー、オーイーシー(OEC)だ。富士通九州システムズ、九州東芝エンジニアリング、新日鉄ソリューションズと共同で自治体用のDC「大分県自治体共同アウトソーシングセンター(OLGO)」を設立。県内の自治体ユーザーのシステム運用や対応をOLGOに移管し、自らは開発した独自ソリューションを県外に拡販する体制を整えた。
OECの森秀文社長は「自治体向けソリューションは、当社の設立当初から手がけており、使い勝手をはじめとした完成度が他社よりも高い」と、自信をみせる。実際、同社の製品はこれまでに京都府庁や東京都中央区、豊島区など大都市の自治体に採用されている。自治体ビジネスでは、公共分野を得意とする全国のベンダーとの協業も強化している。さらに、首都圏の案件獲得に向け、関東地区でのソフト開発を加速するため、本社の開発部門から東京に常駐開発技術者を派遣している。地場案件の減少を補うために、需要がありそうな首都圏で賄おうという狙いだ。
熊本県のNEC系列ベンダー、KISは人材の育成に力を注ぐ。「質の高いソリューションや製品を作るためには、個人の能力を最大限に発揮できる環境づくりが重要」と、野田正昭社長は次のステップに向けた準備を始めた。社内の技術者には、東京で大きなプロジェクトや最新技術に触れさせたり、ケーススタディで学ぶ合宿を実施するなど技術レベルの向上を図る。
こうした取り組みを背景に、今年には通信分野にも参入した。NTTコムウェア九州と組んでNTTの光ファイバー申し込みシステムの保守・運用などを行っている。NECと共同でNGN(次世代ネットワーク網)案件の受注活動も本格化させている。「民需は景気によって大きく左右されるが、通信のような公共事業に近い案件は安定している」(同)と、得意分野以外に視野を広げている。
次号では、地場ベンダーが構造改革の一環として取り組み始めた「クラウド/SaaS」など、「新ビジネス」に焦点を当て、全国で活躍するSIerの事業展開をリポートする。「売り切り」型の販売モデルは収益を生みにくくなっている。このため、地場ベンダーは、大きく事業改革の舵を切り始めているのだ。