M&Aで海外へ積極進出 年商規模でITHDに追い抜かれる可能性が出てきた野村総合研究所(NRI)は、ITHDとは異なる手法を採る。強みの証券や保険に軸足を置きつつ、一般産業分野向けの業務コンサルティングを強化。収益の多様化を進めながら、一方で隣国・中国において“第二のNRI”づくりに力を入れる。この先2~3年で産業分野など非金融系の業種展開を進め、「向こう10年間のスパンでグローバルビジネスを組み立てる」(NRIの藤沼彰久会長兼社長)と方針を語る。意図するところは、現在のリソースでも向こう数年間はビジネスを伸ばせる自信があり、かつ中国では現地のプロパー社員を中心として中国版NRIを立ち上げるというものである。過度なM&Aに走るのではなく、純粋培養に近い形で金融やコンサルに強いNRIらしさを伸ばそうとしている。
だが、こうしたNRIの方針は、今のSI業界において、むしろ少数派である。最大手のNTTデータは、縦横無尽ともいえる果敢なM&Aを推進する。直近だけでも、中国の有力SIerと合弁で杭州NTTデータ軟件を設立。国内SIerのビー・エヌ・アイ・システムズを今年7月に傘下に収めることで、同社がもつ中国の約450人規模のSIerを手に入れた。さらに、ドイツのNTTデータ子会社のアイテリジェンスを通じてオランダの2Bインタラクティブの経営権を取得したと10月に発表。また、オーストラリアのSAP有力ビジネスパートナーであるExtend Technologies Group Holdingsの発行済み株式の51%を取得し、豪州に初めてのグループ会社を抱えるに至っている。
今回の大型不況で大きく劣化した世界規模でのIT需要——。視点を変えれば、世界規模での再編が加速しており、NTTデータはこの流れに乗ることでグローバルにおける生存空間を確保する狙いのようだ。同社は2013年3月期にグローバルの年商1.5兆円、IBMやアクセンチュアと並ぶ世界SIerのトップ5入りを目指す。
勝ち残り戦略を探る
再編テコにあの手、この手
再編は勝ち残るための手段に過ぎない。有力SIerは事業再編やM&Aを足がかりに、あの手この手で新しいビジネスを生み出そうとしている。クラウド/SaaS型に備えた先行投資やグローバル展開、不況に強い商材づくりなどさまざまだ。次の成長につなげる“勝ち残り戦略”を追った。
投資余力の増強で新施策 再編による規模のメリットは、受注体力やコスト競争力を高めるだけではない。技術の共有や設備の投資余力の増強も大きな武器の一つとなる。ソランをグループに新しく迎え入れるITHDは、エンタープライズ向けクラウドに社運を賭けて、先行投資に邁進する。同社では現在、東京都、富山市、高岡市、中国・天津の国内外4か所のデータセンター(DC)を設計・建築中で、いずれもクラウド/SaaSをはじめとする最新鋭の設備を実装。新しいDCでは、プライベートクラウドをアウトソーシングしたり、マルチテナント方式でITHDが保有するクラウドリソースをシェアするなどの利用を想定する。
ソランとの経営統合の動きとクラウド/SaaSの潮流は、実は密接な関係がある。ソランは受託ソフト開発をメインとし、ITHDグループほど強大なクラウド基盤をもたない。ソランの顧客が、今後、一定の割合でクラウド/SaaSへ移行したとすれば、「この部分を受注できなくなる恐れがある」(ITHDの岡本晋社長)とみる。HTIDはソランのSI力と優良顧客を着目し、ソランはITHDグループに入ることでクラウド時代を勝ち抜く目論みだ。
NTTデータの次なる再編の目標は、中国やインドでの開発体制の強化だ。IBMやアクセンチュアと世界で互角に戦うには、日本国内でのソフトの開発・製造に固執していてはコスト競争に勝てない。NTTデータの調べによれば、IBMのインドでの社員数は、グローバルの総社員数の約25%に相当する9万8000人に拡大している。アクセンチュアは同20%の3万7000人。これに対してNTTデータは同0.7%の230人と、明らかに少ない。同社では、まず距離的、文化的に近い中国での開発人員を、2011年には今の約2倍の2000人体制に拡大する。並行して、インドでの増員を検討しており、「グローバル大手と正面から戦うとすれば、インドで5000~1万人規模の開発人員は必要」(NTTデータの榎本隆副社長)と試算する。
有力市場の争奪戦が過熱 中国のビジネスパートナーの力を借りてグローバル進出を拡大させるSIerも現れた。中堅SIerのSJIは、中国大手SIerのデジタル・チャイナ・ホールディングスと業務提携。デジタル・チャイナHDの子会社や関連会社から出資してもらい、最終的にはSJIの株式の約40%を占める大株主になる見通しだ。デジタル・チャイナHDは、中国で強大な販売力を誇っており、中国国内の旺盛なIT需要に支えられて急成長してきた。電力や医療、金融など社会インフラの整備などで、「中国では今後とも需要が拡大する」(デジタル・チャイナHDの郭為CEO)見込みであり、日本のソフト・サービスのノウハウや技術を生かせる。ただし、日本からソフト・サービスをもって行った場合、言葉や商慣習の違いからカスタマイズが発生する。この部分をSJIが受け持つことで「日本と中国の橋渡し役」(SJIの李堅社長)を果たし、自らのビジネス拡大につなげる。

デジタル・チャイナ・ホールディングスの郭為CEO(左)とSJIの李堅社長
大手や海外ビジネスだけでなく、国内でも収益を上げるチャンスはまだある。JFEシステムズは、不況の影響を受けにくい食品業向けや、製造業のコスト削減需要に応える自社ソフトプロダクトの販売を強化。今期(2010年3月期)は、主要自社プロダクトの受注が軒並み前年度を上回る見通しを示す。顧客の生産能力を高める従来型のIT商材ではなく、「品質を高めたり、コストを下げる」(同社の岩橋誠社長)ことに提案の焦点を絞った作戦勝ちだ。
日本ラッドは、ライバルSIerに先駆けて、空調を使わないデータセンター(DC)の商用化に踏み出す。DCで消費する電力の3分の1余りは空調に使われていることに着目。外気を直接採り入れてサーバーの発熱部に吹き付ける強制空冷の除排熱を行うことで、空調にかかる電力の9割余りを削減する計画だ。電力コストの大幅な削減によってDCの価格競争力を高め、クラウド/SaaS商材などの受注増につなげる。他にも新潟の有力SIerのウイングは、プログラム自動生成ツールのGeneXus(ジェネクサス)を活用。プログラムの開発コストを半減させるなどして成果を挙げている。
厳しい受注環境が続くものの、有力SIerは次のビジネスチャンスに向けて、着々と行動を起こしていることがうかがえる。
回復時期、未だ霧の中
下請けや派遣の削減相次ぐ
暗くて長いトンネルの出口が見えない——。SIerをとりまく受注環境が本格的に好転する兆しは、まだ視界不良の状況だ。上場有力SIerが軒並み業績を落とすなか、二次請け、三次請けの下請け仕事が多いSIerからは、「売り上げが3割減った」「400~500人分の仕事がない」などの声が聞こえてくる。大手SIerでは、売り上げが減った分、外注費を削減。内製化を進めることで利益の確保に走る。切られた下請けのSIerは、行き場がない深刻な状態だ。
野村総合研究所は、上期(09年4~9月期)の外注費を前年同期比で6.4%削減。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は外注費を削減すると同時に、この上期は前年同期に比べて派遣社員を486人減らした。JBCCホールディングスは上期の新規案件における外注比率を昨年同期のおよそ7割から4割台へと大幅に縮小。内製化率を高める大手の利益は確保できても、削減される側のSIerに有力な対抗策があるとは言い難い。
国内情報サービス産業は今、すそ野から崩れ始めようとしている。人材確保や技術継承の面からみても危機的状況である。打開する方法は、事業構造の改革と業界再編による受注体力、コスト競争力の強化。そしてイノベーションを起こすことに尽きる。逆にみれば、イノベーションさえ起こせば、巻き返しが可能なのがITビジネスだともいえる。果敢に挑戦することが勝ち残りに結びつく。