SIer・ISVのM&A進む
情報サービス業界の再編機運が高まっている。世界的な金融混乱や円高で受注が伸び悩むなか、体力のあるSIerは不況を乗り越えるための事業再編に力を入れる。中堅・中小のSIer・ISVに対するM&A(企業の合併・買収)が増えることが予想され、業界再編がより一段と進む可能性がある。大手同士の大型再編時代の再来もささやかれるなか、直近のM&A案件を中心に傾向と対策を分析した。(安藤章司●取材/文)
■情シス子会社で商圏を掴む グローバル進出でM&A活用

SIer最大手のNTTデータは、積極的なM&Aを推し進める。同社のM&Aの特徴は新規商圏の獲得と弱点の補強に重点を置いている点だ。今年10月には独自動車メーカーBMWの情報システム子会社・サークエントの経営権を取得。欧州での顧客基盤と自動車製造のノウハウの獲得を狙う。グローバル展開を収益の柱にすることを目指しており、今年1月にM&Aした独SIerのアイテリジェンスに続く大型案件を実行した。
ユーザー企業の情報システム子会社は、ユーザーとの安定的な取り引きを継続するうえで、格好のM&A対象である。NTTデータは過去5年間、主だったものだけでも10社ほどM&Aや出資を行っており、関係するユーザー企業は新日鉱ホールディングス、パナソニックモバイルコミュニケーションズ、近畿日本ツーリストなどの有力企業が名を連ねる。公共と金融に強いNTTデータだが、産業分野はこれまで基盤が弱かった。この分野を強化するためのM&Aを推進。今年度(2009年3月期)売上高構成比見込みでは産業が全体の33%を占めるまで拡大している。
商圏の獲得と並行して進めるのが、専門ノウハウの習得だ。先の独アイテリジェンスはERPのSAP構築で欧州有数の実力があり、09年1月にグループ化する日本総研ソリューションズもERPの構築ノウハウがある。今年10月にパナソニックモバイルと共同で設立したNTTデータMSEでは組み込みソフトを手がける。組み込みソフトはNTTデータが弱い部分で、どう強化するのか長年の課題だった。パナソニックは三洋電機との資本業務提携を進めており、順調に進めば三洋電機の組み込みソフト開発を手がける「足がかりにもなる」(山下徹社長)と期待を高める。
■注力事業を伸ばすM&A活発化 不振SIerの有力部門も対象 主要SIer各社もM&Aを着実に進める。住商情報システムは、他社と差別化可能なビジネス「とんがりビジネス戦略」を推進。注力事業との相乗効果が見込めるSIer・ISVとの資本提携に力を入れる。今年6月にアルゴグラフィックスに22.7%出資。資本業務提携したのに続き、経営再建中のニイウスコーグループから外国為替オンラインシステム事業の譲渡を受けた。9月にはSAPコンサルタント会社の米B4コンサルティングをグループ化し欧米でのSAPビジネスの拡充を狙う。
日本IBMの有力ビジネスパートナーだったニイウスコーグループに関しては、同グループと家電量販店のビックカメラの合弁会社をキヤノンITソリューションズが9月にM&Aするなど経営不振に陥ったSIerの有力事業を他のSIerが買う動きも活発化している。
日本オフィス・システム(NOS)は、10月にモックオフィスコンサルタントを子会社化した。コンサルティングやシステム開発力を高めたいNOSにとって、ノウハウを持つ人材が揃うシステム会社をグループ化することで戦力増強を図る。シーイーシー(CEC)は7月に、組み込みソフトに強いオープンインタフェースから赤外線データ通信やインタフェース互換性検証に関する営業譲渡を発表。第三者の立場でシステム検証を行う「第三者検証サービス」の事業拡大に役立てる考えだ。金融を重点分野に位置づける新日鉄ソリューションズも、5月に数理分析やデータマイニングを得意とする金融エンジニアリング・グループをM&Aしている。
特徴のない受託開発型のSIerでは、不況下でより不利になる。SIer各社は強みをさらに伸ばすためのM&Aを加速させている様子がうかがえる。
■ユーザーは“業者寄せ”着手 SIerは外注先の選別、集約へ 今年度上半期(4-9月期)のSIerの業績を見てみると、金融を中心に受注減が目立つ。野村総合研究所の藤沼彰久・会長兼社長は、「外注単価は下げないが、外注先の企業数は絞る」と、パートナーの選別を示唆する。一方、富士ソフトの白石晴久社長は、「ユーザー企業による“業者寄せ”が始まっている」と、システム開発の発注先であるSIerの数をユーザーが絞り込む動きが表面化してきたと明かす。
こうした不況を見越してか、大手による大型統合も相次いだ。インテックホールディングスとTISが経営統合したITホールディングスが今年4月に発足。同じタイミングで旧キヤノンシステムソリューションズと旧アルゴ21が合併してキヤノンITソリューションズが立ち上がっている。ユーザーによる発注先の絞り込み、SIerによる外注先の絞り込みが加速するなか、M&Aを通じて規模拡大のメリットや得意分野を補強。絞り込みや選別に耐えて、「選ばれる側にいる」(富士ソフトの白石社長)ことが強く求められる。
ただ、現実問題として、選別が進むことで受注が減り、企業価値が下がるSIerやISVが増えることも懸念される。また、円高と世界的な株価の低迷は、海外SIerのM&Aも比較的やりやすい状況を生み出す。M&Aを仕掛ける側からすれば、景気回復と同時に自らを再び成長路線に乗せるための事業再編の格好のタイミングである。相似形のSIerがひしめき、多重下請け構造が問題視されるなか、情報サービス産業全体の再編、最適化の機運が高まる。
住商情報システムは、M&A対象企業の人材流失にひときわ神経を使う。CRM(顧客情報管理)ソフト開発のエンプレックスのグループ化では、不信感が生まれないよう、当初の出資比率は極力抑え、「信頼関係を築きながら」(阿部康行社長)徐々に出資比率を高めた。相手企業の独自性を尊重するグループ施策によって企業価値の目減りを未然に防ぐ。 |