クラウド集約が加速
ビジネス失う危険高まる
2009年11月、SI業界にニュースが駆け巡った。ソニーがアジア地域の社内情報システムの運用拠点をシンガポールに集約するというのだ。これまでの情報システムは、各国でそれぞれ基幹業務システムを運用する分散型が主流。だが、クラウド・コンピューティングの技術進展によってシステムを1か所に統合する動きが加速している。国内で情報システムを受注してきた多くのSIerにとって、ビジネスチャンスが大幅に縮小する恐れが出てきた。
ユーザーと共に世界へ 製造業や流通・小売は、市場が急拡大している中国など新興国への進出を加速させている。製造業なら顧客がより多く存在する国・地域で生産拠点をつくり、流通・小売なら店舗網を拡充させるのが自然な流れ。当然、ユーザー企業を支える情報システムも海外を強く意識したつくりになる。SIerだけが国内のみに目を向け、国内企業向けの業務アプリケーションの開発にとどまることはもはや不可能だ。クラウド・コンピューティング技術を駆使し、グローバルで共通の基幹システムを構築しようという動きに対応できないSIerは、受注競争にすら参加できなくなる。
アプリケーションソフトの開発人員を多く抱えてきたSIerにとって、クラウド・コンピューティングは諸刃の剣である。ただでさえSAPなどERPパッケージソフトやオフショア開発の普及・浸透で、国内でゼロからソフトを開発する仕事が減少。これに追い打ちをかけるのが、クラウドの最大の特徴である一つのシステムリソースを複数のユーザー企業・グループ企業で共有する仕組みだ。クラウドを支えるデータセンター(DC)の開設は多額の先行投資を強いられ、経営へのインパクトは大きい。こうしたなかでも、SIerはクラウドに活路を見出し、積極的な投資に踏み出すケースが目立つ。
ITホールディングスはソランが加わることで社員数が約4100人増えて約1万9000人になる。一方で、国内外で4か所の最新鋭DCを設計・建設中であり、クラウド・コンピューティングに向けて大きく舵を切る。岡本晋社長は、「開発人員の余剰問題は当社を含めて業界全体の課題」と、率直に認める。だが、ユーザーニーズを掴めなければ、結局、仕事が減って余剰人員の問題はより深刻化しかねない。日本のSI業界がクラウドの対応に遅れれば、ユーザーは海外へ基幹システムも移すだけであり、結果的にマイナスになる。クラウドは、今、そこまでSIerのビジネスに直接的な影響を与える技術になっているのだ。
ITサービスの海外流失 パイオニアからクラウド方式による情報システム基盤を受注した日本情報通信(NI+C)は、2010年度以降、順次、パイオニアの海外拠点向けのサービスをスタートさせる。現行では、国内にある主要システムをクラウドに集約した段階だが、今後は海外拠点のシステムも同クラウドに集中化。運用コストの削減ニーズに応えていく方針だ。
ここでポイントとなるのが、クラウドを国内グループ会社のみならず、南北アメリカ、アジア、欧州など世界の拠点で共通的に使う点である。パイオニアは国内にクラウド基盤を置く方法を選択したが、ソニーのように海外に設置するユーザーが増えてくる可能性もある。NI+Cの野村雅行社長は、「日本を基軸としたITサービスの仕組みづくりが大切。そうでなければ情報システムが海外へ流出しかねない」と、指摘する。
クラウドを一度受注すれば、中長期にわたってユーザー企業との取引が可能であり、安定収益に結びつけられる利点もある。先駆けてクラウド基盤サービス「absonne(アブソンヌ)」を立ち上げた新日鉄ソリューションズ(NSSOL)では、顧客別にクラウドを構築するSIや運用・保守サービスなど、「実際には多くの関連ビジネスが生まれる」(北川三雄社長)と話す。
NSSOLのクラウド関連ビジネスは、2009年3月期でおよそ20億円にまで拡大。だが、クラウドから波及するSIや運用・保守サービスが予想以上に伸びており、「ビジネスの実態を十分に表していない」(同)として、数字をより広範囲に切り出すよう改める方針を示す。ユーザー企業からの引き合いは多く、向こう2~3年で、クラウド関連ビジネスを今の2~3倍に拡大できる手応えを感じている。NI+Cも、09年度(10年3月期)のクラウド関連の売上高は数億円だが、「2年後には2ケタ億円、3年後には3ケタ億円を視野に入れる」(野村雅行社長)と、向こう3年で100億円規模へ拡大させると意欲を示する
2010年、成長につなげる 不況の直撃を受けて受注や売り上げが減るなか、SIerは人員のやりくりに神経を尖らせる。キヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)は、合併を重ねてきたこともあり、他のSIerに比べて販管費率が割高。人員再配置を促進するには「新しい仕事をつくらなければならない」(武井尭社長)とし、今後、より拡大させるクラウド基盤の構築ビジネスや、運用・保守などに人員を重点的に割り当てることで、人的リソースの最適化を推進。自社DCの新設も視野に入れる。
クラウドに耐える大型DCの新設や基盤ミドルウェアの開発には100億円を超える規模の先行投資が必要といわれる。受注減で厳しい事業環境が続くなかでも、これだけの投資をする背景には、今の受託ソフト開発を主軸とする開発系SIerのビジネスモデルに限界がみえているという事情がある。このまま手をこまぬいていれば、さらなる受注減は避けられない。ならば、クラウドを武器に、国内外のユーザー企業のIT需要を取り込んだほうが、結果的に生存可能性は高まる。ITホールディングスの岡本晋社長は、「投資抑制やコスト削減でビジネスが縮小均衡になるより、トップラインを伸ばすことを優先する」と、チャンスがある限り挑戦し続けることが大切だと説く。
2010年、情報サービス産業が再び成長する年であって欲しいと誰もが願う。しかし、少なくとも前半は底這いの状態が続くとみるSIer経営者が多くを占める状況だ。従来型のビジネスモデルが通用しにくくなるなか、規模のメリットや投資余力の向上に向けたSIerによるM&Aや再編もより加速する可能性が高い。グローバルとクラウドの二つの軸でビジネスを伸ばすSIerが勝ち残る。
富士ソフト
七転び八起き
機動力で乗り切る  |
| 白石晴久社長 |
リーマン・ショック以降、富士ソフトの白石晴久社長は「民需は落ちる、公共へ行け」と、全社員に大号令をかけた。かろうじて公共分野で受注を果たしたものの、いかんせん民需中心できただけに経験が不足気味。予想以上に開発コストがかかり、約15億円の工事損失引当金を計上することになった。白石社長は、「高い授業料を支払うことになったが、しかし、もし公共に行かなかったとしても、結局、受注減で開発人員の空き工数が発生して、やはり損をしていた。公共での経験値が高まっただけ得をしたと考えるべき」と、前向きに捉える。
この間、社内報を通じて全社員にビジネスモデル転換の必要性を切々と説いた。下図の“アングリーカーブ”と“スマイルカーブ”の例がそれで、かつてはプログラミング(製造工程)に価値があったが、今は上流の企画・設計と、下流のクラウド基盤や運用・保守により高い価値が見出されるものだ。長らくプログラミングを事業ドメインとしてきた富士ソフトにとって、元請け受注による企画・設計力の強化や、クラウドビジネスへの移行は、高付加価値ビジネスへの移行そのもの。
白石社長は、「ビジネスは、人・モノ・カネ・情報の四つで動くといわれるが、これに“組織資本”を加えた五つの要素が必要だと考えている。社員一人ひとりの意識を高め、個々人が動きやすい仕組みを採り入れれば、逆境下でもビジネスを伸ばせる」と話す。2010年夏の次期参議院選挙次第で、公共投資はより一段と削減される可能性がある。深刻な国の財政危機を踏まえ、選挙が終われば「予算の引き締めが強まり、内需は一時的に停滞する可能性がある」とみているからだ。そういう側面からも「海外でのビジネス基盤の確立は急務」と、再び全社に号令をかける。
現在、組み込みソフト分野で台湾・中国の電機メーカーへの急接近を進める同社だが、「機動的な動きができるかどうかは、組織資本がどれだけ動員できるかにかかっている」と、七転び八起き、全社一丸となって危機を乗り越える。