SIerの海外進出が活発化してきた。NTTデータは、中国やインドでのオフショア開発を拡大させ、富士ソフトは台湾・中国における組み込みソフト需要の取り込みを目指す。中国大手SIerのデジタル・チャイナ・ホールディングスは、こうした日本のSIerとの連携に前向きな姿勢を示すなど、海外ビジネスが盛り上がりの機運をみせる。国内情報サービス市場は、受託ソフト開発を中心に縮小傾向が続いており、「体力のあるうちに海外ビジネスの基盤をつくっておきたい」(大手SIer幹部)との思惑がある。これまで、海外市場への進出に消極的だった日本のSI業界。だが、不況に背中を押される形で、本格的に国外市場の開拓を視野に入れ始めた。
独立系SIerの組み込みソフト開発で最大手の富士ソフトは、初めての直営海外拠点を台湾に開設した。本格的に営業が始まって1か月。約6800万円の受注を獲得し、「予想を上回る好スタート」(富士ソフトの白石晴久社長)と手応えを感じている。同社の上期(2009年4~9月)の組み込みソフト関連の連結売上高は前年同期比30%ダウン。国内製造業の開発抑制が依然として続いており、予断を許さない。しかし、中国など海外に目を向ければ、通信機器やデジタル家電市場の成長が著しく、日本の組み込みソフト技術を必要とするメーカーは多い。台湾を足がかりとして海外需要を掴む。
欧米豪の市場へ積極的に進出するNTTデータは、中国でのオフショア開発力の大幅拡充に乗り出す。今は1000人ほどの開発体制だが、2011年には2000人へと倍増させる計画だ。この9月に保険会社向けパッケージシステム開発の合弁会社を設立するなど、中国への投資を加速している。世界大手のIBMやアクセンチュアが、インドで万人単位のオフショア開発人員を確保して開発コストを低減し、国際競争力の向上に努める。こうした大手と互角に勝負するには、「例えば、インドで少なくとも5000~1万人規模の開発パワーが必要だ」(NTTデータの榎本隆副社長)との見解を示す。
中堅SIerのSJIは、中国大手SIerのデジタル・チャイナ・ホールディングス(HD)との提携に合意。中国では国家規模の社会インフラの整備が急ピッチで進んでおり、ITを活用して電力送電を効率化するスマート・グリッドや、医療、金融・保険などで数千億~兆円単位のまとまった投資が期待できる。SJI単独では、事業規模の側面で限界があるため、日本のSIerとの連携を視野に入れる。
SJIの李堅社長は、「これまでの日本のSIer経営者の海外ビジネスに対するマインドは高くなかった。だが、彼らがもつITシステムの競争力は決して低くない」と分析。SJIの中国開発拠点における開発・カスタマイズ能力に加え、デジタル・チャイナ・HDが中国全土に張り巡らせた販売・サポート網につなげることで大型の受注獲得を目指す。“海外に活路を求める”日本のSIerと、急速な経済成長で“自国内のIT需要を持て余し気味”な中国のSIerとの橋渡し役を担うことで、ビジネス拡大に弾みをつける戦略だ。
ここでポイントとなるのは、オフショア開発の役割が変わっている点。従来は、国内での価格優位性を保つために海外で開発するケースが多かったが、NTTデータや富士ソフト、SJIの一連の動きでは、海外市場で世界のSIerと互角に戦うための戦術としてオフショア開発を位置づける。新興国市場では物価の違いもあり、現地で開発しなければ勝負にならない。また、先進国市場において競争相手となるIBMなどは、中国やインドでコスト競争力をつける。グローバルビジネスを推進する日本のSIerにとって、オフショア拠点をいかに“戦力化”するかが勝負の分かれ目になる。(安藤章司)
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中小ならでは機動力生かせ
国内情報サービス市場は、大手SIerの下請け層の落ち込みが大きい。野村総合研究所(NRI)は、今年度(2010年3月期)の外注費を前年度比で100億円近く減らす見込み。中堅SIer1社分の売り上げが消える大規模なものだ。JFEシステムズは下期(2009年10月~10年3月期)の外部開発人員の数を前年同期比で約4割削減の見通し。アイティフォーは、この上期、外部の協力会社数を半減させた。
その反面、ここへきて大手SIerはこぞって海外の開発拠点の拡充を図っている。製造業と同様、需要がある地域に開発パワーを投入したほうが、ビジネス効率が高いからだ。これまで、中国などで日本のSIerが十分な成果を挙げられなかった理由を、デジタル・チャイナ・ホールディングスの郭為CEOは、「ターゲットとする新興市場が未発達だったことと、現地でのパートナーの支援が十分得られなかったこと」の2点を挙げる。今、中国の情報サービス市場は大きく成長し、かつデジタル・チャイナのような有力SIerも登場。状況は大きく変わった。
だが、課題もある。日本のSIerは、もともと国内企業のシステム開発に軸足を置いてきただけあり、ソフトウェア開発のフレームワークに独自色が強い。NTTデータが中国やインドなどで開発を拡大させるには、「開発の標準化を進める」(NTTデータの榎本隆副社長)ことが必須条件。海外重視を鮮明にするNRIでさえ、中国でのオフショア開発の金額は頭打ち。外注を削り、内製化を進めるのに手一杯で、開発フレームワークを標準化して海外での開発を大幅に増やすフェーズまで至っていないケースもみられる。
製造業では、中堅・中小企業も盛んに海外生産を行う。SI業界においても、大手SIerからの発注をただ待つのではなく、中堅・中小SIerならではの機動力を生かし、海外での開発を推し進める時期に来ている。(安藤章司)