先進事例
「SAMモデル自治体」
神戸市の取り組み  |
神戸市の広瀬裕一主幹 電子市役所担当 |
ソフトウェア資産管理(SAM)の普及活動を推進する米ビジネスソフトウェアアライアンス(BSA)からSAMの取り組みが先進的と評価され、「SAMモデル自治体」に選ばれたのが兵庫県神戸市だ。神戸市は、約1万5000人の職員を抱え、1万1000台ほどの膨大なPCとソフトウェアを的確・効率的に管理する仕組みをつくり上げている。
2008年、神戸市は03年に策定した「情報セキュリティポリシー」を全面改訂した際、ソフトウェア資産管理の重要性を認識し、SAMシステムの構築に取り組んだ。(1)不正コピー防止(2)セキュリティ強化(3)コスト削減が目的で、企画から数えてほぼ7か月間かけて、ソフト資産管理の仕組みをつくり上げた。
構築したシステムでは、まず(1)パソコン管理(2)インストール管理(3)ライセンス管理(4)ソフトウェア媒体管理(5)ユーザーライセンス管理――の五つの台帳を作成。そのうえで、各課に対し、「調達」「導入」「変更」「廃棄」の四つのステータスを申請するように義務づけた。BSAは、この基本台帳の分け方や作業フローを高く評価し、「SAMモデル自治体」として選出している。
ソフトウェアのライセンス管理では、入手形態という項目を設け、「パッケージ」「プレインストール」「ボリュームライセンス」の3種類に分けて管理。SAMシステム構築の陣頭指揮を執った企画調整局情報化推進部が認めたソフトでなければ、インストールを許可しないように設定した。各PCには運用管理ツールが導入されており、常時監視している。これらのシステムを09年7月に稼働させ、その後は問題なく運用しているという。
SAMシステムの構築に尽力した広瀬裕一・企画調整局情報化推進部主幹電子市役所担当は、「どこまでやるべきかも分からないし、何からやればいいのかも分からなかった」と着手した頃を振り返る。現在に至っては、「各SAM推進団体が公開している情報や手引書を活用するメリットは大きい。運用後は業務効率化も図れている」と成果を実感している。
ソフト権利保護団体「BSA」
担当者に聞くSAMの国内実情
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片岡伸吉 日本担当 PR・マーケティング議長 |
SAMが国内に浸透していないわけでなく、「正しいSAM」が定着途上にある。ユーザーに聞けば、大半は「SAMは実施済み」と返答する。ただ、その内容がSAMレベルに達していない。そこが課題で、SAMの国際規格「ISO/IEC19770-1」を規格化するなど、「正しいSAM」を普及させようとしている。
「正しいSAM」を進めるには、ハードウェアすべてを適切に把握できているかどうかが第一歩になる。ここに誤解がある。ツールベンダーやツールを「売る側」のSIerなどは、「ソフトウェア資産管理ツールを導入しよう」とユーザーに提案する。だが、ツールを入れただけではSAMは実現できない。なぜかというと、オフライン(ネットワーク未接続分)があるからだ。
ツール(道具)はあくまでツールにすぎない。道具を入れて実際に管理することを作業プロセスとしてこなさなければ、ツールが生きてこない。ツールのデータを使いつつ手作業でのチェックも必要ということだ。
例えば、個人情報漏えいは社内の端末から起こることが多い。これと一緒。その際、どこから漏れたかを答えられないのは、管理できていないも同然。当たり前のことだが、できていないことがたくさんあるのが実状だ。
多くのユーザーでは、ソフトの棚卸しを適正にできていない。SIerなどが言っていることで大きな間違いは、「社内で個別のユーザーに対しアドミン権限を与えていない」と説明し、「これで大丈夫」としているところ。そう言い切っているユーザーには100%違法コピーがある。一度も棚卸しをせずに移行すると、違法コピーはそのまま受け継がれてしまう。
SAMは、IT戦略の重要コンポーネントだ。そこに気づいていない人が多く、「SAMが普及していない」と感じられてしまう要因。そこで、BSAとしては、「P-SAM」(官公庁・自治体向け)と「C-SAM」(企業向け)のポータルを構築した。「正しいSAM」ができないのは、参照すべきドキュメントがなかったことが理由としてあるので、これを増やしていく。
システム構築する側のソフトライセンスに対する認識不足が課題として残されている。BSA主催のSAMセミナーは一定の参加者がSIerなので、そこで「正しいSAM」やライセンスの認識を新たにしてもらいたい。(談)