製造業の不振で打撃を受けた中部のIT産業に、復活の兆しが見え始めた。SaaS/クラウドモデルやBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)を積極的に取り込むなどの構造改革を推進。ビジネス拡大につなげる。
見え始めた突破口
クラウド、BPOで構造変革
新年度がスタートして1か月。少しは明るさがみえてきた情報サービス業界だが、ビジネスが本格的に上向いてきたとはまだ言い難い。本特集でクローズアップする中部地区は、経済危機で大きな打撃を受けた自動車や精密機械など製造業界のIT投資が盛んだっただけに、昨年度(2010年3月期)の落ち込みは目に余るものがあった。
「売り上げ3割減」「長引く自宅待機」「優秀なSEは客先に常駐。社内には1~2年生のほぼ素人ばかりが暇を持て余して…」――。地元SIerの経営者は、厳しい状況を異口同音に嘆く。なかでも落ち込みが大きいのは、ソフトウェアの受託開発である。地元製造業の新規ソフト開発の凍結や先送りが長引き、首都圏の大手SIerの外注費削減は当面続く見通しだ。開発工程を中国など海外へ移すオフショア開発も拡大の一途。中部の地場SIerのなかには、すでに従来型のソフト開発による事業拡大に見切りをつける動きさえある。
こうした“脱受託ソフト開発”の動きは、地元製造業のIT投資の衰退や大手SIerの外注費削減、オフショア開発の拡大とともに急速に広がっている。単純なコスト比較や生産力の競争では、海外のオフショア開発企業に勝てないのは明らか。地域SIerは、別の生き方を迫られている。地域の有力SIerは、自らに適合した新しいビジネスモデルの創出に全力で取り組んでおり、すでにいくつかの方向性がみえつつある。
本特集ではその動きを五つのカテゴリに分けて、地元有力SIerの取り組みを通じた“中部IT産業の勝ち残り策”をレポートする。
五つのカテゴリで分析
中部SIerの勝ち残り策とは
ビジネスの主力だったソフトウェア開発が危機に瀕するなか、中部のSIerはさまざまな勝ち残り策を模索している。その方策は、各社経営トップへのインタビューを通じて、おおよそ五つのカテゴリに分けることができる。一つのカテゴリに特化するケースもあれば、複数カテゴリを組み合わせて収益モデルを構築するSIerなど、生き残り策はさまざまだ。
収益拡大の余地大きい カテゴリその1は、「SaaS/クラウド系」である。中部地区は大手製造業ユーザーや首都圏・関西圏からのアウトソーシング案件も少なくないことから、データセンター(DC)の設備基盤が比較的充実している。富山市のインテックは、地元での大規模DCの建設や電力系DCの拡充を進めており、こうしたインフラを活用したSaaS/クラウドビジネスの拡大を模索するカテゴリである。
地区外のDCや、ましてや海外のDCを使うSaaS/クラウドでは、地元SIerに落ちるカネは限られる。だが、地場のDCを使えば、逆に首都圏から大型のBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)案件を誘致し、収益力を高めることができる余地は大きくなる。
カテゴリその2は、SaaS/クラウドに関連して市場形成が期待される「設計・運用重視系」。ITシステムのコスト削減を見込んでユーザー企業が導入するプライベート・クラウドの設計・運用はもとより、例えば地元DCに預けられたクラウド系システムの保守運用を専門として請け負うビジネスの新規創出も期待できる。
ITライフサイクルは、企画設計から始まり、ソフトウェアの開発、維持・運用と進む。これまではソフト開発に最も多くの人員を投入し、売り上げの構成比率も大きかったが、前述の通り、この領域が最も落ち込みが激しい。そこで、上流工程の設計と、下流工程の運用でより多くの受注を得ることでビジネスを伸ばすわけだ。
受託ソフトから脱却へ カテゴリその3は、自社が得意とする業種・業務に特化する「業種・業務重視系」。ただ漫然とソフト開発を手がけるのではなく、ユーザー企業にしっかり食い込み、ユーザー企業の発展とともにビジネスを拡大するという策だ。大手SIerからの二次請け、三次請けのソフト開発では業種・業務の強みを伸ばすのは難しい。このカテゴリで勝ち残るには、必然的にエンドユーザーとの直接取引を拡大させなければならない。このことが脱受託ソフト開発につながり、収益力のあるビジネスの構築に結びつく。
カテゴリその4は、「公共・医療重視系」である。通常は民需重視でやってきたSIerが、長引く製造業種のIT投資不振によって、緊急避難的に公共・医療の比重を高める動きが活発化している。手堅い官需で糊口をしのぎつつ、民需復活に望みをかけるカテゴリである。
最後のカテゴリその5は、古くからある「独自プロダクト系」だ。業種・業務の強みを積極的にパッケージ化し、横展開する。次ページからは、五つのカテゴリをベースにSIer各社の取り組みを追う。
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