東海地区の有力SIerが組み込みソフトウェア事業を相次いで強化している。主なターゲットは、全国でトップクラスの集積度を誇る自動車関連産業だ。従来の業務システムやFA(工場の自動化)の東海地区における市場規模は限られている。地元SIerの多くは将来的に拡大が見込める組み込みソフト事業を強化することで成長を加速させる考えだ。中部経済産業局や公的機関も組み込みソフト産業の育成に乗り出しており、一大産業に発展する潜在力を秘めている。(安藤章司●取材/文)

組み込み事業を相次いで強化
ターゲットは自動車産業!

■組み込みソフト需要拡大 自動車関連産業が後押し

 組み込みソフトの需要増大は、自動車など組み込みソフトを必要とする製造業の集積度が高いことがあげられる。中部経済産業局が今年5月にまとめた「中部の組込みソフトウェア実態調査」によれば、全国の組み込み関連製品の出荷額に占める中部地区のシェアは25%余りと高い。東海地区の巨大な自動車関連産業の存在が大きい。総人口に占める中部地区の人口が約10%強であるのに比べ、組み込み製品を製造する製造業の集積度の高さ、開発規模の大きさがうかがえる。

 だが一般の業務システムの全国に占める売上高シェアは4.5%程度と、人口比の半分しかない。業務システムは組み込みソフトに比べて汎用性があり、全国系のSIerやISVのパッケージソフトを使う頻度が高いことなどがシェアの低さの背景にある。

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 これに対して自動車関連メーカーは、組み込みソフトを多用することによって商品の付加価値を高めようとしている。エンジンやブレーキなどを電子的に制御する「制御系システム」、カーナビゲーションシステムなど「車載情報系システム」、コンピュータを駆使してより安全でスムーズな交通網をつくる「ITS(高度道路交通システム)」の3分野が主な組み込み対象で、いずれも自動車関連メーカーにとって重要分野だ。

 一大商機とみたSIerは、組み込みソフト事業を相次いで強化。業務システムやFAなどをメインとする地元SIerが組み込みソフト領域に事業を拡大させるケースや、全国系SIerが東海地区に営業拠点を増設するケースなどさまざまだ。なかには組み込みソフト開発の経験がほとんどなかったにもかかわらず、独自のアイデアでノウハウを身につけた挑戦的なSIerも存在する。

■検証サービスでスキルを獲得 FAのノウハウ生かし再参入

 地元SIer大手のトーテックアメニティは2003年に組み込みソフト市場に参入。もともと一般企業や自治体向け業務システムのSIがメインであるため、組み込みソフトの実績はわずかしかなかった。にもかかわらず、直近の組み込みソフト関連事業の年間売上高は十数億円まで拡大。2年後の09年度(10年3月期)には25億円を見込むほど成長してきた。組み込みソフト事業担当の石川佳宏取締役は、「ほとんどゼロからスタートしたビジネスが、ここにきて急成長している」と、手応えを感じている。

 では、どのようにして事業を立ち上げたのか──。業務システム系の技術者を組み込みソフトの技術者へ転換する仕組みの1つとして選んだのが“検証サービス”である。プログラムに精通した技術者を組み込みソフトのソースコードの検証に当たらせると同時に、組み込みソフト特有のプログラム構造を学んでいく手法である。ソースコードの矛盾点やエラー個所を検証していく過程で、「模範とすべきプログラムや、逆に反面教師とすべきものに触れることが学習効果を高める」(石川取締役)ことに結びついた。

 一方、FAから組み込みソフトに事業領域を拡大してきたのが地元有力SIerの東海ソフトだ。80年代前半まで組み込みソフトを手がけていたが、クライアント/サーバーシステムの爆発的な普及の波に乗って業務システムや生産管理領域に軸足を移していた。ところが、自動車関連の組み込みソフト市場が拡大してきたことを受けて、00年に再び参入。需要拡大とともに勢いをつけ、昨年度(07年5月期)は売上高全体の3割強を占めるまでに拡大した。

 FAを長年手がけてきただけあり、デジタル信号処理やリアルタイム通信技術など、「自動車の制御系に使う組み込みソフト開発と共通する技術に長けていた」(組み込み事業担当の伊藤秀和取締役)ことが有利に働いた。参入障壁が比較的低く、競争が激しい携帯電話などには手を出さず、自動車や自動販売機などの制御系に経営資源を集中。得意分野を深掘りしてきたことも他社との差別化に役立っている。

■トヨタお膝元に開発拠点 国や公的機関も動き出す

 全国系で組み込みソフトに強いSIerのコアは、2年前にトヨタ自動車本社のすぐ近くに開発拠点を開設。自動車関連需要の取り込みに力を入れる。東海地区を担当する社内分社である中部カンパニーの大平茂・カンパニー社長は、「自動車関連では制御系をメインに位置づけてきたが、今後はITS関連の需要増も期待できる」と、他社に先駆けてITSビジネスの拡大に取り組む構えだ。

 組み込みソフト産業の拡大を受けて、中部経産局や地元公的機関も動き始めた。中部経産局では、組み込みソフトの人材を育成するためのカリキュラムづくりや、産官学で連携して産業集積度を高める産業クラスター政策に、「中部地区の組み込みソフト産業の振興」(中部経産局)を盛り込むことも検討している。

 また、IT産業育成機関であるソフトピアジャパンでは、2年前から組み込みソフト技術者の育成を本格化。今では組み込みソフト用の開発環境の整備事業に参画したり、研究会を立ち上げるなど幅広い活動を行っている。国や自治体の公募事業などを巧みに活用し、人材やベンチャー企業の育成につなげている。

 ソフトピアのインキュベーション施設には160余りのIT企業が入居しており、うち半数が育ち盛りのベンチャー企業である。組み込みソフトはそのなかのまだ一部の企業が手がけているにすぎないが、「多彩な業種業界、産官学の連携を推進していく」(後藤三郎・専務理事)ことで、応用の幅を広げていく方針を示す。