“ポスト不況”睨み動く
ビジネス創出に強い意欲
SaaS/クラウドや設計・運用、業種業務など、経済危機で疲弊した地域経済を活性化させる五つのビジネスモデルをレポートする。中部地区の有力SIerは“ポスト不況”を見越して、従来の延長線上とは異なる新しいビジネスの創出に意欲的だ。
SaaS/クラウド系
サービス集積進む SaaS/クラウド系カテゴリの雄は、SIerトップグループのITホールディングスの中核事業会社の1社、インテック(富山市)だ。同社は今年8月にデータセンター(DC)機能を併せもつインテック高岡ビルを竣工し、2011年4月をめどに北陸電力と協業して総床面積約6500㎡の次世代DCを立ち上げる準備を着々と進めている。金融業や製造業など大手ユーザーのSaaS/クラウドの受け皿として富山のDC設備を活用する構えだ。北陸地区だけでは需要が限られているため、首都圏の需要も取り込んでいく。

北陸電力とインテックが共同で建設中の次世代型DCの完成予想図
 |
高志インテック 川上留嗣社長 |
インテックは、東京電力と協業して東京都内に大規模なDCセンター「アット東京」を2000年に立ち上げ、ビジネスを大きく伸ばした実績をもつ。“売るほど”電気がある電力会社と組むことが、電力を大量消費するDCビジネスには適している。今回は自社ビルと北陸電力との協業パターンと二段構えで臨む力の入れようだ。地価が高く、コスト高の首都圏でDCを運用するよりも、富山県のDCで運用したほうが合理的であり、万が一、首都圏で大規模災害が起きたときの事業継続マネジメントにも役立つ。
早ければ2014年度にも北陸新幹線が開通し、首都圏との交通利便性は格段にアップする立地条件だけに、北陸地区は一大クラウド集積地に化ける可能性がある。
インテックでは、最新鋭のDCを基盤とした総合的なITサービスの集積度合いを高めることで、地域IT産業を発展させる戦略を打ち出す。インテックグループの高志インテックは、現在20~30人の体制で既存のアウトソーシングサービスなどを手がけているが、富山県内に相次いで自社グループ関連のDCが開設されることを踏まえて、クラウド運用技術者を向こう2年をめどに100人体制へ増強する。運用エンジニアの「スキル転換よるビジネスの拡大を急ぐ」(川上留嗣社長)と、関連するITサービスの成長を期待している。

インテック高岡ビルの完成予想図
設計・運用重視系
富山の置き薬商法  |
ヨーズマー 野口高志社長 |
受託ソフト開発ビジネスの回復が進まない状況下で、期待が高まるのは“設計・運用系”の仕事だ。大手SIerはソフト開発の内製化を進め、外注するとしてもコスト競争力が高く、将来有望市場に育つ可能性が高い中国などのオフショアパートナーに発注するケースが増えている。中部地区の地元SIerからは、「受託ソフト開発の需要回復を待っても、一向に回復しない」(地元SIer幹部)と嘆く声も聞かれる。設計→開発→運用のITライフサイクルの大きな流れのなかで、国内に残るのは設計と運用である。開発に比べれば投入する人数はケタ違いに少ないが、DCが地元にある限り、設計と運用は残る。
富山県に開発拠点を置くヨーズマー(金沢市)の野口高志社長は、「富山の置き薬クラウド」だと表現する。“富山の置き薬”になぞらえた「使った分だけ代金を支払う」ビジネスモデルがSaaS/クラウドにマッチする。SaaS/クラウド型のサービスを設計し、ユーザー企業からの利用料や運用代行で収益を上げる収益モデルだ。これがうまくいけば、全国に富山のSaaS/クラウドを売り歩く“置き薬商法”が名実ともに成立する。
北陸電力グループで地元有力SIerの北電情報システムサービス(HISS、富山市)は、サーバー仮想化技術を駆使した仮想専用サーバーなどのサービスメニューを今年3月に整備。同サービス上で業務アプリケーションを開発・販売するパートナーを募る。自身による直販だけでなく、地元SIerやソフトハウス、ウェブ開発会社など10社程度に、サービスのビジネスパートナーになってもらう予定だ。今年度(2011年3月期)中には、「パートナー数を倍増させる」(中村聡志・IPソリューショングループ技術チーム副課長)ことで、営業力や開発力を高める。
業種・業務重視系
BPOで安定収益を確保  |
ジェイ・エス・エス 杉本昌保社長 |
ユーザー企業の業種・業務への精通はSIerの本分である。厳しい状況下だからこそSIerとしての強みを前面に押し出すことが大切なのはいうまでもないが、安定的に収益を得られる“仕組み”がないことには競争に勝ち残れない。この仕組みこそが業種・業務に深く入り込んだBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)である。
ジェイ・エス・エス(金沢市)は、主に流通・小売業で自らの強みを発揮するとともに、DCへの投資も怠らない。2006年に石川県内で2か所目のDCを開設したのに続き、2009年12月には東京事業所にもDCを整備。同社の、杉本昌保社長は、「流通・小売業はコストにシビアな顧客が多い業種だけに、日頃から無駄な経費の削減や収益の安定化に努めてきた」と話す。直近の売上高に占めるBPOなどアウトソーシング関連の比率は約3分の1だが、向こう5年で同比率を5割へ高めることで経営基盤のより一層の強化を図る。
 |
システムサポート 小清水良次社長 |
90年代前半までは、受託ソフト開発の比率が9割を超えていたジェイ・エス・エスだが、バブル崩壊でソフト開発の需要が急減。96年に最初のDCを新設して以降、徐々にBPOへの比重を拡大してきた。
景気変動によるIT投資の増減をBPOの収益で平準化することで、今般の経済危機後も増収基調を維持している。流通・小売業に強いだけでなく、BPOやDC設備への周到な投資が経営危機を未然に防いだのだ。
同じく金沢のシステムサポートは、顧客密着型のビジネスモデルを展開するとともに、石川、東京、愛知の3か所のDCを活用したアウトソーシングビジネスに取り組む。
並行してOracleデータベースなど特定の技術も深く掘り下げ、競争力を高めたことで09年6月期は16期連続増収を達成。10年6月期も増収の見通しを立てる。増収基調に入る以前は、大手SIerやメーカーとの同業者間取り引きが多くを占めていたが、ユーザー企業の業種・業務に深く食い込むことで「エンドユーザーとの直接取引が拡大することとなった」(小清水良次社長)。現在は売り上げの半分余りをユーザー企業からの直接受注が占める。
公共・医療重視系
民需のへこみをカバー  |
トーテックアメニティ 川北敏久取締役 |
民需の回復が遅れるなか、制度改正によるITシステムの手直し需要が周期的に発生する公共・医療分野で売り上げを補う動きも活発だ。名古屋市の有力SIerのトーテックアメニティは、既存の自治体向け基幹業務システムを大幅に刷新。中核となるソフトモジュールを集約したコアパッケージ「G-COAS」をベースに、人口規模で10万人前後の自治体向けの営業に力を入れる。子ども手当など新政権の目玉施策にも柔軟に対応できるよう、カスタマイズ性能を向上。自治体顧客からの「引き合いは上々」(川北敏久・取締役執行役員公共医療システム事業部長)と手応えを感じている。
同社は、医療向けITシステムの分野でトップシェアの富士通の東海地区トップソリューションプロバイダでもあり、「依然として厳しい受注環境の民需を、公共・医療分野の受注拡大でカバーする」(同)ことにより、落ち込んだ製造業向けなどのビジネスを補う方針を示している。
独自プロダクト系
基盤入れ替えで差別化  |
| ホクコウ 北洞順造社長 |
 |
| ユーコム 今牧一盛社長 |
既存のプロダクトを新しいプラットフォームにつくり直すことでユーザー企業の需要を喚起する取り組みも増えている。
岐阜市のホクコウは、アドビシステムズが開発するRIA(リッチ・インターネットアプリケーション)基盤「AIR」をベースにアパレル系製造業などに向けたシステムを開発。維持運営費のかさむ従来型のクライアント/サーバーシステムをRIAベースのシステムに置き替えることでコスト削減効果を訴求する。「新規に手がけるシステムは、ほぼすべてAIRなどRIAベースのシステムに切り替える」(ホクコウの北洞順造社長)ことで他社との差別化。受注拡大につなげる。
ユーコム(富山県射水市)は、NTTデータイントラマートのアプリケーション構築基盤の「intra-mart」の採用に積極的だ。東京・赤坂のNTTデータイントラマート本社に自社のSEを派遣するなど、intra-martの技術習得に余念がない。開発効率を高められるintra-martは、ユーザー企業からの引き合いも強く、「北陸でintra-martといえば、ユーコムだと指名買いされるまで知名度を高める」(今牧一盛社長)と、意欲を示す。
従来型のモデルは通用せず
好循環を創り出せるかがカギ
製造業不振の影響を今も色濃く受ける中部IT産業――。首都圏からの受託ソフト開発もオフショア開発の隆盛で中長期的には先細っていく。これまでと同じビジネスモデルは通用しない。ユーザー企業のIT投資を引き出し、地域のIT産業の集積度を高める必要がある。富山県情報産業協会副会長の畠山靖雄・AWS社長は、「ITサービスの集積度が高まれば、運用サービス系などさまざまな周辺ニーズが生まれる」と指摘。ニーズが喚起できれば、新たなソフト・サービスの設計・創出、市場開拓の好循環につなげられる。