中小企業のIT化を支援し、地場で活躍するSIerの多くは、これまでのように大手SIerからの「下請け開発」に頼らず自活の道を歩んでいる。品質と価格要求の厳しい環境下で育った地域SIerのソフトウェアは、経済不況下だからこそ全国へと需要を伸ばしている。全国150社余りのベンダー取材のなかで、この時代に「売れる商材」は何なのかを問うてみた。
新機軸で“薄日”差す地方IT 「週刊BCN」編集部は今年1~3月にかけて、全国150社余りの旧オフコンディーラーと称されるSIerを一斉に巡回取材した。主に、地元の中小企業に対して自社ソフトウェアやシステム全般、運用・保守を提供するベンダーである。
リーマン・ショックの急激な落ち込みから、やっと今“薄日”が差し始めてはいるものの、依然として地域経済は厳しく、さらにシステム開発コストの削減を見越して大手SIerが「オフショア開発」にシフトしたことが追い打ちをかけ、地域SIerからの下請け案件も激減している。
この厳しい環境下で、地域SIerは受託ソフト開発だけでなく、活路を見出すために自社開発ソフトの展開強化したり、「クラウド・サービス」やスマートフォンなどの新領域へと足を向け始め、これが下請け開発の減少分を補い、「売れる商材」となって全国へ波及することにもつながっている。
北海道圏
厳しさ続く建設業向けで全国展開
バス運行管理、クレジット向けも
北海道の経済は、一時の停滞感を脱したものの、全国と比べると、依然として成長率は低い。そのため、ユーザー企業のITシステム構築にあたっては、価格と品質などに厳しい要求が突きつけられる。ゆえに、この環境下で育った地元SIerが自社開発したソフトウェアは、低価格で高品質な製品が溢れている。
その一つが札幌市にある内田洋行の子会社、ウチダシステムソリューション(旧SiU)が提供する建設業向けERP(統合基幹業務システム)「PROCES.S」だ。道内での導入実績を引っ提げて全国展開したところ、これまでに約300社に提供実績をあげた道内屈指のヒット製品となっている。
リーマン・ショックと、公共事業削減を掲げる鳩山新政権の誕生により、受注環境が悪化している建設業界。当然のことながら、ITシステムに対するコスト要求は厳しい。このため、同社の「PROCES.S」を「売りたい」という大都市圏のSIerが増え、某大手SIerも取り扱っている。ウチダシステムの山下司社長は、「次期バージョン(ver.5.0)で完全Web化し、これを利用した自社データセンターからのクラウド事業を開始する」と、全国展開をさらに加速させる考えだ。
一方、旭川市にあるコンピュータービジネスも、地元のバス会社に導入したバス運行管理の統合システム「バス・システム」や、中小クレジット会社向けの「CRETOS」などが全国展開を果たしている。同社の関仁社長は「大手SIerに対抗していくうえでは、地域の実状に合った製品開発が求められている。この厳しい環境で育った製品を、別の地域のベンダーが欲している」と、バス会社やクレジット会社以外の業種特化システムも開発し、全国の中小SIerを販社とする事業展開を進める計画だ。
東北圏
中小小売店向けポイントカード好調
ネットワーク一元化、ニーズ拡大
東北地域では、首都圏の大手ITメーカーなどからの受託ソフトウェア開発する「下請け構造」が売上高の大半を占める。最近は、中国などへの「オフショア開発」の進展や世界同時不況などの影響で、案件数が減って受注額が大幅に減少した。そのため、自社ブランドのソフト提供や競合他社と一線を画した独自の製品・サービスの拡大に踏み切るSIerが相次ぐ。この戦略転換が徐々に成長の芽を育み始めているのだ。
宮城県を本拠とするテクノウイングは、小売業向けポイントカード「ドリームビンゴ」ベースのビジネスが好調だ。地元を中心にした飲食店やガソリンスタンドなど、全国1万8000店舗以上に導入実績がある。このカードは、来店客の買い上げ金額に応じてポイントを貯めることができる。カード利用者がポイントを貯める際、“ビンゴゲーム感覚”で楽しめる。ビンゴが揃ったら当選金額が当たる仕組みで、店舗側にとってはカードを来店客に発行することでリピーターが確保できると好評だ。
テクノウイングの横山義広代表取締役は、「中堅・中小規模の小売店にとって、大手の小売店と同じ還元率を訴えたポイントカードを導入したところで、資本力で競争に負ける。『ドリームビンゴ』なら、来店客が興味をもち、還元率を抑えるなどコスト削減にもつながる」と話す。
一方で、新サービスの模索も活発だ。サイバー・ソリューションズは、ネットワークを一元管理する「クラウド・サービス」の提供を検討中。イントラ・セキュリティシステム「NetSkateKoban」をSaaS化した。現在、販社などパートナーでデータセンターを所有するベンダーとともに事業化に向けた議論を行っているところだ。ネットワークを一元管理するシステムは、これまで、大企業が導入するケースが大半だった。だが、「月額料金など課金制の採用で、誰でも手軽に導入できるようにする」(キニ・グレン・マンスフィールド社長)と、中堅・中小企業(SMB)を新規顧客として開拓していく方針だ。
岩手県では、県内だけでユーザー企業を獲得といったビジネススタイルから、首都圏などを視野に入れた全国規模で事業展開することを検討する中小SIerが多い。その1社である岩手情報システムの伊藤由記夫・常務取締役は、「東京のスタッフを増員し、全国規模でシステム案件を獲得したい」と考えている。

テクノウイング提供の「ドリームビンゴ」は、中堅・中小規模の小売店で導入が進む
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